St.R @534


ほたるの光 窓の雪
書(ふみ)よむ月日 重ねつつ
いつしか年も すぎの戸を
明けてぞ けさは 別れゆく

とまるも行くも 限りとて
かたみに思う ちよろずの
心のはしを 一言(ひとこと)に
さきくとばかり 歌(うと)うなり 


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 優しい風が春の匂いを運んでくる3月のある日、清麿はモチノキ中学校を卒業した。卒
業式そのものは午前中に終わったのだが、その後に催された立食形式のお別れ会でおおい
に盛り上がったりクラスメイトや先生方との別れを惜しんだりして、家に帰ったころには
すでに5時を回っていた。
「ただいま」
「おかえりなさい。結構遅かったのね」

 清麿がキッチンへ顔を出すと、華は野菜を洗う手を休めて清麿を迎えてくれた。またダ
イニンクテーブルでテレビを見ていた清太郎も清麿の方を振り返る。清麿の卒業式のため
にイギリスから一時帰国しているのだ。
「良い卒業式だったな、清麿」
「ああ…。こんな満ち足りた気持ちで卒業できたのもおやじやおふくろ、……そしてガッ
シュのおかげだよ」
 ガッシュの名が出ると、皆の表情に翳りがさす。そう、この場所にガッシュの姿はない。
「おやじ、おふくろ」
 清太郎の前に座り、清麿があらたまったような神妙な表情で二人に声をかける。華も清
太郎のとなりに腰掛けた。
「オレのわがままを聞いてくれて本当にありがとう。必ず生きて戻ってくる、これだけは
絶対約束する。本当に……約束する…から……」
 清麿の声が徐々に涙にかすれて、最後は嗚咽となる。色々な感情が清麿の中に溢れてき
て、涙が止まらないのだ。
 中ニの冬、清麿は満身創痍の状態で南米より帰国した。「魔界の王を決める戦い」のこと
など全く知らない当時の華は、虚ろな瞳と生気のなさ、そしてなによりガッシュがいない
ことに不安を感じ、清太郎へと相談。清太郎は取るものもとりあえず清麿の元へ駆けつけ、
事の顛末を知ることとなる。

「清麿、お前が自分で決めたことだ。私も母さんもお前を信じている」
 清太郎の声は落ちついていたが、清麿を勇気づける強さがある。
「お前の頭の良さはこのためだったのかも知れんな。全て解決してから人生やり直しても、
お前ならすぐ追い付けるさ。だから行け、清麿」
「清麿……体だけは気を付けるのよ。…さて、今日は清麿の好きなものばかり作るわね」
 華は涙声になりながら、気丈に振舞い夕飯の支度を再開する。清麿も涙を拭くと、部屋
で着替えるためにキッチンを後にする。
「あなた……これで良かったんですか? 進学も就職も蹴って旅立とうとするあの子をこ
のまま見送って…。これが今生の別れになるかもしれないほど危険な所なんでしょ?」
 華はエプロンで涙を拭いながら、清太郎に問い掛ける。これまでのいきさつや、清麿の
決意など頭では理解していても、やはり感情は納得していないのだ。
「こうと決めたらてこでも動かんだろう。清麿も男だ。やりたいようやらせてやろうじゃ
ないか」
 そう言いながら、清太郎は華をそっと抱きしめた。華も清太郎の胸に顔を埋めてしばら
く泣き続けた。

 部屋に戻った清麿は、卒業証書の入った筒を机に置くと、肌身離さず持ち歩いている鞄
の中から一冊の本を取りだしパラパラとめくった。ザケル・ラシルド……清麿は噛み締め
るように本に記載された内容を目で追い、心の中で反芻する。
「ガッシュ……」
 懐かしいその名を口にすると、清麿は壁に設置されたボードに張りつけた週刊誌や新聞
の古びた切り抜きに目をやる。
『トップアイドル 大海 恵  謎の失踪!?』
『何があったのか!? パルコ・フォルゴレ記憶喪失…』
 そんな見出しが大きく踊っていた。再び本に視線を移し、第7の術・第8の術のページ
を開く。心が負の成長を果たしたために浮き出た呪文だが、ガッシュと袂を分かつ直前に
浮かび上がった呪文のため、どんな効果があるかは清麿にも分からなかった。
(義務教育も終了して、やっと探しに行けるぞ、ガッシュ。恵さん)
 弱々しい微笑を浮かべて、清麿はデボロ遺跡での出来事を思い出す。それはロードこと
ゾフィスを前にしての出来事だった。

 ガッシュと清麿、ティオたちとキャンチョメたちがゾフィスも元へ来た時、奴はブラゴ
との死闘の真っ最中だった。天地が揺れるほどの激しい攻防に清麿たちは近づくことすら
はばかられて、ただ見ていることしか出来なかった。
「この戦い、すごいわ。とても私達に手出しできるレベルじゃない……」
 恵が感嘆の声をあげる。互いの本の持ち主が女性であることも、驚愕の要因になってい
るようだ。
「アイアン・グラビレイ!」
 ブラゴの攻撃をゾフィスは素早い動きでたやすく避けると間髪入れずに反撃し、それを
ブラゴが対処してまた攻撃といった互いに譲らない、張り詰めた中での戦いは全くの互角
で永久に続くかのように見えた。その状態に業を煮やし、最初にし掛けたのはゾフィスの
方だった。
「さすがにしつこいですね。……ココ!」
「わかったわ」
 ココはゾフィスとアイコンタクトで会話すると、いきなりポケットからナイフを取り出
し自分の二の腕を切りつけた。傷口からみるみる血が溢れ、ポタリポタリと床に滴る。
「ココッ!!」
 このココの行為に唯一心乱したのはシェリーだった。本当にわずかなその隙を、ゾフィ
スがすかさず仕掛ける。
「きゃあああ」
「シェリー!!」
 ブラゴがとっさに反応してシェリーの守りに入るが、ゾフィスの攻撃はシェリーを傷付
け意識を失わせるには充分な威力を発揮し、本は無事なものの形成は一気にゾフィス優勢
に傾いた。

「逃げろ、ブラゴ!!! ザケルガ!!」
 清麿が叫ぶとゾフィスに向かって電撃がほど走る。不意を付かれたゾフィスにザケルガ
が直撃するがやや衣類を焦がしただけで、全くダメージを与えてはいないようだった。し
かしブラゴたちが引くだけの時間は稼げたようだ。
「この借りはいつか必ず返す」
 シェリーを背負い出入り口に立つブラゴは、清麿たちにそう言い残すと撤退していく。
「やれやれ、逃がしてしまいましたか」
 ブラゴが消えた出入り口を眺めながらゾフィスは名残惜しそうに呟いたが、すぐにガッ
シュ達の方をふりかえるといやらしく口元を歪めて目を細める。得も言えぬ威圧感が清麿
達に降り注ぐ。
「這いずり回っているネズミがよくここまでこられましたね」
「お前だけは許さない!! 覚悟しろ!」
 再びザケルガを唱えるが、ゾフィスはわずかに右に動いてそれをかわすとラドムを放っ
た。恵がセウシルを唱えてバリアーを張ると、ラドムはそれに弾かれてあさっての方向へ
飛んでいき爆発する。砂埃が舞う中、キャンチョメはディカポルクで巨大化した幻影を見
せてゾフィスの注意をひきつけると、ラウザルク状態のガッシュがゾフィスに近づき肉弾
戦を挑む。しかしまるで風に揺れる羽根のように、ゾフィスはガッシュの攻撃をかわして
いく。

「サイス!」
 ティオの攻撃がココの本めがけて放たれた。ココは身を翻してかわし、違う呪文を唱え
る。その瞬間ゾフィスを中心として爆発が起こり、巻き添えを食ったガッシュは弾き飛ば
された。ラウザルクの効果もほぼ同時に切れる。すかさずゾフィスの呪文が放たれるがマ・
セシルドで防ぐと続けてギガ・ラ・セウシルを唱え、ゾフィスを自爆させた。ポルクで鳥
に変身したキャンチョメが、マッチを銜えココの背後から近づくが見つかって叩き落とさ
れる。
「さすがここまで来ただけはあるようですね」
 ゾフィスは同時に3体を相手にしている為か、やや余裕のなくなった表情を見せた。し
かも戦っている間中血が滴り続けたココが貧血を起こしたらしく、崩れ落ちるように片膝
をついた。
「いける!!!」
 清麿たちが一斉に攻撃しようとしたその時だった。
「フン……無様だな、ゾフィス」
 全く聞き覚えのない声に一同が声の主に顔を向ける。そこに立っていたのはガッシュに
うりふたつの子供と銀色の本を持った青年だった。

「ゼオン」
 ゾフィスがその名を口にする。清麿とガッシュは突如現れたゼオンに驚愕した。ティオ
やアポロが見間違えるのもうなずけるほどその外見はガッシュそっくりだが、瞳に宿る禍
禍しい光と全身から漂うナイフの切っ先のような雰囲気はゾフィスに匹敵する威圧感をか
もし出していた。
(なぜここにゼオンがいる!? アイツもゾフィスを……? いや、だったらオレ達が倒そう
としているこの場面で出てくるはずがない。…まさか……まさかっ!?)
 清麿の背中を冷たいものが走った。他の皆も同じ心境なのだろうか、言葉なくゼオンを
見つめている。ゼオンはゾフィスの元へ歩み寄ると、ガッシュ達と対峙する。
「せっかく遊びにきたんだ。このパーティにオレも混ぜてくれよ」
 ゼオンはニタリと笑うと、右手をかざした。それが合図だったかのように、青年─デュ
フォーがザケルを唱える。ガッシュのそれとは比較にならないほどの速さと威力を持った
ザケルを皆はちりぢりになってなんとか避けた。そのまま二発目のザケルを放つがティオ
のギガ・ラ・セウシルが発動しザケルがゼオンに跳ね返る。
「よし、やったわ」
 ティオは得意げな笑みを浮かべたが、それはすぐに驚きの表情へと変わった。ゼオンは
跳ね返ったザケルをラシルドで防ぎ、なおかつラシルドから発した電撃がザケルと合わさ
ってさらに強大な電撃となり、ギガ・ラ・セウシルを粉微塵に破壊してしまったからだ。

「ほう、なかなか便利な術の使い手だな。ゾフィス、あの女はお前が引き込め。オレは後
ろの奴をやる」
「あなたに指図されるのは屈辱ですが、いたしかたありませんね」
 やや自虐的に苦笑してゾフィスはゼオンの横に立つと、ゼオンのマントが伸びてゾフィ
スに巻き付き一瞬でゾフィスの姿を消し去った。その刹那、恵の絶叫が響き渡る。慌てて
清麿が恵の方を見ると、宙に浮かんだゾフィスが恵の頭に手を乗せており、その手からは
妖しげな光が発せられて、恵の中へ吸い込まれていく。
「いやあぁぁぁぁぁ!!!」
 恵が頭を押さえてうずくまった。慌てて清麿が恵に駆け寄ろうとすると目の前をゼオン
が通りすぎた。そして同じように駆け寄ろうとしていたフォルゴレの持つ黄色い本を目掛
けてザケルを放つ。フォルゴレは本を両腕でしっかり抱くとザケルに背を向ける形で本を
守った。しかし強力な電撃をまともに受け、フォルゴレはその場に倒れ込む。
「うわ〜ん、フォルゴレ〜!!」
 キャンチョメが泣きながらフォルゴレに駆け寄ってきて、『鉄のフォルゴレ』を歌った。
するとボロボロになりながらもフォルゴレは立ちあがって歌を一緒になって歌う。ゼオン
は一連の行動を冷ややかな目で見ていたが、鼻で笑うと床を滑るような素早い動きでフォ
ルゴレが持つ本の正面に立ち、ザケルで火を付けた。

「しまった!!! キャンチョメ」
「フォルゴレ〜。僕、帰りたくないよ。フォルゴレと別れたくないよぉ〜〜!」
本を投げ出して、二人は泣きながら抱き合った。薄れていくキャンチョメにフォルゴレ
はこれまでの感謝と別れの言葉を伝え、最後にこう言い残す。
「キャンチョメのこと、絶対に忘れないから」
「フォルゴレ、僕もだよ」
 二人は互いの顔を脳裏に焼き付けるかのように見つめ合った。しかしフォルゴレの背後
に立ったゼオンが容赦なく追い討ちをかける。
「いいや、辛い思い出は忘れたほうが楽だろう…? 協力してやるよ」
屈むフォルゴレの後頭部に手をかざしてゼオンが囁く。パチパチと火花が散りフォルゴ
レに降りかかると、フォルゴレはうめき声を発して虚空を見つめながら仰向けに倒れてい
く。
「キャン……チョ…メ…」
 キャンチョメの名を呟いて、フォルゴレは意識を失った。
「フォルゴレ!? フォルゴレ! フォルゴレェェェ〜〜〜〜〜!!!」
 キャンチョメは必死にフォルゴレの体を揺さぶりながら呼び掛けるが、本が燃えつきキ
ャンチョメの姿は永久に消える。


「フォルゴレ! キャンチョメ!! ……ゼオン、貴様……!!」
 清麿の体が怒りで震えた。しかし今は心を操る能力を仕掛けられ苦しむ恵の方が第一で
ある。
「ガッシュ、ティオ。恵さんはオレがなんとかする。だからそれまで呪文抜きで持ち堪え
てくれ」
 この二人を相手に呪文抜きで戦うことなど到底無茶な願いだと分かったうえで、清麿は
ガッシュたちに懇願した。しかしガッシュもティオも笑顔で答えてくれる。
「ウヌ、まかせるのだ」
「わかったわ、だから恵をお願い!」
(すまない)
 恵を抱きかかえ、清麿は部屋を出た。途中にあった本の持ち主たちの寝所へ来ると、清
麿は恵をベッドへ降ろした。額から汗が噴出し、苦しそうに息をする恵を清麿は成す術も
なくただ恵の名を繰り返し呼ぶばかりであった。
「清麿くん…助……け…て。私が、いやぁ…私じゃなくなってしまう!!!」
 心の奥底から湧きあがってくるドス黒い感情に必死にあがない、自我を保とうとする恵
は、まるで子供のように体を丸めて頭を押さえて左右に振る。清麿は冷静になろうとしば
らく目を瞑っていたが意を決したように目を開くと、恵の上に覆い被さり恵を仰向けにさ
せるとその唇に自分の唇を重ねた。恵は驚いたように目を見開いたが、すぐに清麿の唇が
離れ二人は見つめ合った。

「恵さん。オレ、恵さんのことが好きです。愛しています」
「清麿くん……」
「ゾフィスの能力なんかに屈しないでください。今のままの恵さんでいてください。オレ
も手伝いますから」
「ありがとう、清麿くん。……私も大好きよ」
大粒の涙をこぼして恵が清麿の思いに答えてくれた。しかし恵の心は今危ういバランス
の上に成り立ち、かろうじて今の性格が勝っているにすぎない。
「恵さん。オレの気持ちを、……強くオレを感じてください」
清麿は時間との戦いを意識した。長い間、善悪の感情が責めぎ合えば恵さんの心が壊れ
てしまう。一刻も早く、悪の感情の暴走を完全に押さえ込まなければならない。清麿は再
び恵に口づけると、舌を絡ませ唾液を口腔へ注ぎ込む。ブラウスをブラジャー共々強引に
たくしあげると左の掌で押すように揉みしだき、時折乳首をつまんで刺激する。また同時
に清麿は自分の大腿部を恵の股下に何度も強く擦りつけた。同時に三箇所も責められ、恵
はまるで陸に上がった人魚のように悶えながら身体をくねらせる。絡み合った舌を半ば突
き放すようにして唇を離すと、左手はそのままに清麿は恵の白く豊満な右胸の頂きを吸い
出した。恵が小さな声を上げる。舌の先端で弾くように乳首を愛撫し、つんと上向いて固
くなってきたのを感じると清麿は甘噛みして恵の性感帯を的確に捉えていく。右手で器用
にスカートのホックを外すと腹部のラインに沿ってショーツとの隙間に右手を滑る込ませ
る。

「そこは……っ!! っん…あぁ……」
清麿の右手が恥丘を越えて茂みを掻き分けると、割れ目に沿って中指をあてがう。温か
くて粘り気のある液体が清麿の右手をまとわりつくのを感じながら、清麿は手探りで指を
動かす。小さな突起を親指と中指で挟み、その間を人差し指でそっと擦ると恵はベッドの
シーツを握り締め、全身を薄桃色に蒸気させながら、かわいらしい声を出す。さらに下へ
と指を運ぶと、大量に溢れた蜜に導かれるように恵のもっとも敏感な箇所へたどり着く。
花びらのような小陰唇を二本の指で擦ったり、強くつまんだりすると恵の呼吸が激しさを
増した。清麿は指を恵のさらに深いところへと忍ばせていく。最初は拒むようになかなか
指が入っていかなかったが強引な進入によって花弁は広げられ、第ニ関節まで入ると恵の
内側をそっと撫でた。
「うぐぅ!!! あ…んっくふっ・・ぅ・・あん・・やぁぁ・・んっ」
 清麿の指の動きに合わせるように恵は身体を弓なりに弾ませた。恵の動きにベッドがギシギシと
音をたてて揺れ動く。指を上下に動かしつつ、肉壁を内側から蹂躙しながら清麿は胸の愛撫を止
めて恵の濡れたショーツを脱がしてしまうと、解放された右手を激しく動かす。
「清麿……くん、来て…。私は、…んっ、あぁ。はぁ……清麿くんが……好きな、はぁん…自分が好
き……なの。……清麿く…んが好きで…いてく…れる自分で……いたいの」
「恵さん……」

 涙で潤む瞳。紅に染まる肢体。心地良く響く声。その全てが清麿はいとおしかった。まだゾフィス
の能力がその効力を発揮しているのか、恵は時折苦しそうに顔を歪めだが聖母のような神々しさ
を持って清麿を真っ直ぐ見つめている。恵の一途な思いに清麿は言葉が出てこない。代わりに頬
を一筋の涙が伝う。
清麿は自分のペニスを取り出した。すでに固くなったそれは戒めから解き放たれて雄々
しく屹立し充血して熱く脈打っている。充分に潤った恵の秘部へ亀頭を当てるとゆっくり
と恵の中へと押し入れていった。
「!!…んっ、あぁぁ……、痛ッ…」
 恵が痛みに喘いだ。頭を激しく振って握ったシーツを力いっぱい引っ張って痛みに耐え
る。結合部から流れる愛液に鮮明な血の赤が混ざりだした。
「い、痛いですか!? すぐ抜きますから…」
 恵の痛がりように快感よりも心が締めつけられるような気持ちのほうが勝って、清麿は
慌ててペニスを抜こうとした。しかしそれを恵が制する。
「私なら…はぁ、大丈……夫…だか、ら。……っんん! 清麿くんと…ああぁ、一つに…な
れるのが……すごく、嬉し…い……」
 すごく痛いはずなのに無理して微笑む恵を見て、清麿は挿入を再開した。出来るだけ恵
の負担を減らすようにゆっくり静かに恵の中へ入ってゆく。子宮口まで達すると清麿は恵
の涙を唇で拭い、張りついた髪を手で丁寧に払いのけた。恵も清麿の優しい愛撫に身を委
ね、二人は一体感を共有しあう。

「動いても…大丈夫?」
 おずおずと清麿は恵に尋ねた。収まり掛けた痛みが再び恵に襲ってくるのではと清麿は
危惧していたのだが、恵ははにかみながらもこくりと小さくうなずいてくれた。ありがと
う…そう囁いて清麿はゆっくりと腰を動かした。痛みによって発せられていた恵のうめき
声が徐々に甘い喘ぎ声に変わっていき、感じているのが分かるほど恵の身体が震えている。
そんな恵の様子にホッとした清麿はその安堵感からか、急に快感に襲われた。ペニスをき
つく締め上げる恵の肉壁の温かさ、心地良さに思わず理性のガタが外れそうになるのを必
死で耐えた。
「んんっ、あっああ……、はぁ、清…麿く……ッン!ふぁ、…私、……も、もう…」
 熱く荒い吐息を漏らし、恵は肢体を清麿にすり寄せて腕を背中に回した。抜き差しする
ペニスのスピードを早め、清麿は恵を絶頂へといざなう。ひときわ大きく身体を震わせ、
恵が達して叫ぶのを聞くと、清麿はペニスを抜いてベッドの下に向かって射精した。イッ
てしまった清麿はしばし余韻に浸っていたが、我に返ると心配そうに恵の顔を覗き込む。
「恵…さん?」
 恵も肩で息をしていたが、自分の顔を見つめる清麿の表情の意味を理解すると、安心さ
せるように口付けた。それはゾフィスの「心を操る能力」に打ち勝ったことへの証しであ
った。二人は溢れる涙に顔を濡らしながら、相手のぬくもりを確認しあようにそのまま熱
いキスを交わした。唇を離すと銀色の糸が名残惜しそうに切れたが、嬉しさと恥ずかしさ
の入り混じった表情を向けてくる恵が可愛くて清麿は恵の頬に手を伸ばす。しかし指先が
恵に触れようとした瞬間、ガッシュの赤い本が強い光を放った。

「な、何だっ!?」
 清麿はベッドから飛び降りて本を手に取ると、パラララッとページをめくり──手が止
まる。そこには第7の術・第8の術と二つの呪文が浮かび上がっていた。清麿の背筋をザ
ラッしたものが走る。
「戻ろう、恵さん!!」
 清麿の様子からただならぬ雰囲気を感じ取っていた恵は着衣の乱れを正し、すでにベッ
ドから降りていた。二人は全速力でガッシュたちのところへ戻ったが、その光景に呆然と
立ち尽くす。
「やめて、ガッシュ…あんっ……やだぁ。…っん……こんなの、やだよぉ…」
 床に仰向けで倒れているティオと、ティオの両腕を踏み付けるように左右に立つゼオン
とゾフィス。そしてティオのスカートをたくし上げ、ティオの股間に顔をうずめているガ
ッシュの姿……。ティオのすすり泣く声と小さな水音が清麿と恵の耳にも届いた。
「ガッシュ!!!!」
 いたたまれず清麿がガッシュの名を叫んだ。ガッシュは顔を上げて清麿を見上げたが口
の回りをベトベトにし、大きな目からは光が失われている。ゾフィスに心を操られている
のは一目瞭然だった。清麿たちが帰ってきたことによって、ゾフィスたちがティオから離
れた。恵がティオに駆け寄って抱き起こすと、ティオは恵にしがみついて大声で泣き出し
た。踏まれていた両手首が紫に変色し、股間から太ももにかけてじっとりと濡れている。

「ティオ…」
 恵はティオを抱き締めると、一筋の涙が頬を伝った。悲しさと悔しさと、そしてティオ
たちが苦しんでいる時に大いなる幸福感に満たされていた自分が無性に腹立たしくて自然
と涙が溢れた。その涙を見て眉間に皺を寄せたゾフィスがスッと恵に近づくと左腕を掴ん
で一緒に宙へと舞い上がった。小さな悲鳴と朱色の本をティオの元へ残して恵はゾフィス
と空中で対峙する。ゾフィスが手を離せば恵は落下するしかない状況なのだが、今の恵に
は恐怖心がなかった。
「貴方はミス・恵でしたね。私の能力は効かなかったのですか?」
「お生憎様ね。私の心は私だけのものよ!」
「フフフ……。貴方といい、ミス・シェリーといい、女性の方は育む力を持っているため
か心の強い方が多い。ココの時もそうでした……もしあの時にココを愛する者がそばにい
たら私の能力は破られていたでしょう」
 懐かしそうに目を細めてゾフィスは語った。恵はゾフィスの真意が掴めず、ただゾフィ
スの顔を見つめていた。しかしティオが必死になって恵の名前を呼んでいることに気が付
いて恵はティオを見下ろすと、声をかけようと口を開き掛けた。
「ラドム」
 恵の真横をエネルギー弾が走った。そのまま朱色の本に直撃し、激しく本が燃えあがる。
あまりに一瞬のことで恵は頭の中が真っ白になった。清麿がティオの名を叫びながら駆け
寄り、無駄だと分かっていても本の火を消そうと試みる。ティオの身体が段々と薄くなっ
ていくさまに恵の歯がガチガチと鳴った。

「ティオ……ティオ…?いやあああああああ、ティオォォォォ〜〜!!!!」
 半狂乱に恵は叫んだ。身体を振り子のように揺らしてゾフィスの手をほどこうとしたが、
ゾフィスは微動だにしない。
「離して!お願い…離してぇ!!」
 右手をティオへ伸ばしながら、恵は必死に懇願する。しかしその願いが聞き届けられる
はずもなく、あっと言う間に本は燃え尽き、ティオの姿は完全に消え去ってしまった。
「ああ……ティオ、ティオ!」
 ティオが消えゆくのをただ見ているしか出来なかった恵は全身の力が抜けてしまい、呆
然とした。清麿が床をこぶしで叩きながら肩を震わしている姿が段々と涙でぼやけてくる。
「忌ま忌ましいのですよ。私の能力が効かないなんて…。ゴーレン!」
 ゾフィスに呼ばれて一体の魔物が姿を表した。その名に清麿が反応して体を強張らせる。
たしかパティが千年魔物を連れて清麿の前に現れたときに聞いた魔物の名前。生きたまま
石に変える術を使うという魔物「石のゴーレン」。
「変えてしまいなさい」
 そう言うとゾフィスは恵の腕を離した。重力に従って落下する恵に向かってゴーレンが
術を放つ。恵の体が白く発光したかと思うとまぶしいほどの光を発し、清麿は目を瞑った。
光が収まり清麿が辺りを見回すが、どこにも石版らしきものはない。

「ほう、ダイヤモンドになったか」
 ゼオンが掌にすっぽり収まるほどに大きい石を見ながら感嘆の声を上げた。清麿が振り
向くとゼオンはその石を清麿に見やすいように高々と掲げた。光り輝く透明な宝石の中に
恵が磔にされたように十字の姿で埋め込まれているのが見える。
「恵さんっ!」
 清麿はありったけの声を出して恵の名を叫んだが、まるで氷漬けにされたかのように恵
の反応はない。
「ガッシュ、これはお前が持っていろ」
 ゼオンからガッシュに恵の入った宝石が手渡された。するとガッシュは胸の留め具を外
し、その石と恵の石を交換する。
「ガッシュの本の持ち主…たしか清麿と言ったな。お前は見逃してやろう。お前にはそれ
が一番の苦痛になりそうだからな」
 ゼオンは高らかに笑うと、ガッシュやゾフィスたちをマントで包み込む。
「ま、待てっ!!ガッシュと恵さんを返せ!!!」
 清麿がゼオンに駆け寄るも、タッチの差でゼオンたちの姿が消える。清麿はその場に崩
れ込むように座り、絶望に打ちひしがれる。
「ガッシュ━━━━━ッ!!! ……恵さぁぁぁぁん━━━━━!!!」
 清麿の悲痛な咆哮は、静寂を取り戻した遺跡にいつまでも響いていた。

 回想を終え、赤い本をパタリと閉じて清麿はそっと胸に抱いた。
 帰国した当時は立ち直れないと思っていた。ガッシュが去り、恵が連れ去られ、フォル
ゴレはキャンチョメのことはおろか魔物の戦いのこと全てを忘れてしまっていたのだから。
しかし清太郎に叱咤激励され、死んでいた清麿の心にかすかな火が灯った。
 まだ赤い本は清麿の手元にあり、清麿はその持ち主なのだ。
 それからの清麿は変わった。この本を持っているかぎりガッシュとはまた逢える。中学
生という立場では身勝手に動くことが出来ないので、向こうから現れることを想定して肌
身離さず本を持ち歩いた。しかしあの日以来ゾフィスもゼオンもなりを潜めており、清麿
は卒業と同時に自ら探しにいくことを決意したのだ。
 本を机に置いて、清麿は制服を脱ぎ捨てた。私服に着替えると本を鞄に戻し、それを持
って一階へと降りて行った。

 翌朝。清麿の自宅前に一台の高級車が止まっていた。その傍らにはシェリーとブラゴが
立っている。簡単な荷物を背負った清麿は両親に見送られながら、彼女らのもとへ歩み寄
る。
「すまない。迷惑をかける」
「フン…借りは返すと言っただろう」
「こうなった以上、本を持つあなたが一緒のほうが私達も都合がいいだけよ。でも、助け
てくれたことには感謝するわ……ありがとう」
 シェリーとブラゴは清麿と言葉をかわし、車へと乗り込んだ。清麿は空を仰ぎ決意を新
たにすると彼らに続いて車に乗り込む。

全てはまた、ここから始まる────




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