St.R ◆St.R5157.E @374


 両手を口元に当てて、清麿は息を吹きかけた。擦り合わせたり握ったりして、かじかむ
自分の手を温める。NHKホールへ向かう人々は大晦日であるにもかかわらず、楽しげな様
子で通り過ぎていった。
「水野の奴、遅いな」
 待ち合わせ場所に決めたからくり時計に目をやって、清麿は呟いた。実際は約束の時間
になるかならないかといった時間なのだが、寒い中をただ待っている清麿にはつらいもの
であった。
(駄目だとは分かっていたけどさ……)
 清麿はポケットから二枚のチケットを取り出した。眺めながらため息をついて、それを
再びポケットへ戻す。
 数日前、清麿は恵に年末年始を一緒に過ごさないかと誘ってみた。レコード大賞や紅白
出場が決まっており、それは無理だと分かっていたが、それでももしかしたら、自分との
時間を作ってくれるのではないかといった、淡い期待を抱いていた。しかし恵の年末年始
は、仕事で埋め尽くされているのだという。さすがは売れっ子アイドルだけあって、緻密
なスケジュールだ。その場は冗談で済ましたが、別れ際「良かったら見に来て」と、恵か
ら紅白のチケットを二枚手渡されたのだ。

「まぁ、年末を一緒に過ごすことには変わりないわな……」
 清麿は自嘲した。せっかくなので恵ファンの鈴芽を誘い、今日に至る。
(それにしても、どうしてここで待ち合わせなんだ?)
 鈴芽と一緒に行くことにしたのはいいのだが、待ち合わせ場所をモチノキ町ではなく、
ホールそばに指定してきたのは鈴芽のほうからだった。清麿にはそれが不思議であったの
だが──。
「お待たせ、高嶺くん。ごめんね、遅れちゃって」
 ふいに背後から声がかかり、清麿は振り返った。
「いや、オレもさっき来た……と…」
 振り返りながら鈴芽に声をかけた清麿だったが、鈴芽の姿を見るなり言葉を失ってしま
った。呆けたように鈴芽を眺めている。
「変…かな? 似合わない? 高嶺くん」
 鈴芽は恥ずかしそうに、自分の全身を見回した。
 淡い桜色に色とりどりの小さな花が散りばめられた晴れ着に身を包み、ウィッグと髪飾
りでアップしたヘアスタイルの鈴芽がそこにいた。いつもの鈴芽とは雰囲気が異なる。清
麿はしどろもどろになりながらも、首を横に振った。
「スマナイ。その…びっくりして……。いや、だから……とても似合っているよ」
 なんて言ったらよいのか? 清麿は一言一言を搾り出すように紡ぎ、赤くなりながら最
後の言葉を言った。

「ありがとう、高嶺くん」
 鈴芽は清麿の言葉を素直に喜び、はにかんだ微笑みを清麿に向けた。二人は一路会場へ
と向かって歩き出す。
「そう言えば、今日ガッシュくんは一緒じゃないの?」
「ああ、あいつならティオのお呼ばれを受けて遊びに行ってるよ。今日は恵さんが仕事に
出てて帰りが遅いから、ちゃんとお留守番してるだろうよ」
「子供二人だけで大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。恵さんのマンションはセキュリティー万全だし、あの二人、オレより強い
んだぜ。」
 そんなたわいのない会話をしてるうちに、会場内の指定席へとついた。定刻通り紅白は
始まり、やがて恵の出番となる。司会者との会話中でさえ、さまざまな歓声が飛び交うの
はさすがといったところか。清麿は鈴芽がはしゃいでいるのではと思い、鈴芽の方を振り
向いた。しかし鈴芽は意外にも静観していた。一心に恵を目で追っているようで、以前の
コンサート時とは大違いだ。光のプリズムのイントロが流れ始め、清麿もステージに集中
する。今日の恵さんは妖精のような衣装とステップで、一段と可愛らしかった。

 歌い、踊る恵。応援するファンの人たち。それをかやの外で見ている清麿。以前恵から、
アイドルとしての夢を聞いたことがあった。私の歌でみんなが元気になってくれればと語
る恵の笑顔が、その時の清麿にはただただ眩しくて。

  ──どうして自分が恵にとって特別な存在だと思ったのだろうか?──

 本の持ち主として共有の秘密を持ち、プライベートな時間を共に過ごしたことあるとい
うだけで、他人とは違うといった優越感を抱いていた。きっと恵も、少なからず自分に好
意を抱いてくれていると。しかしそれは一方的な思い込みにすぎなかったのだ。清麿は今、
誰よりも恵から遠いところにいることを痛感した。
 彼女は生粋のアイドルなのだ。これまでも──これからも。
 ふと、清麿の目尻にハンカチが添えられた。驚いて清麿がハンカチを握ると、一緒に鈴
芽の手も握ってしまった。驚いたような鈴芽の小さな悲鳴が上がる。
「ど、どうしたの? 泣いてるよ」
 鈴芽が心配そうに清麿の顔を見ていた。知らないうちに泣いていた清麿を気遣っている
のが、ハンカチごと握ってしまった手からも伝わってくる。

「ゴメン。何でもないんだ。目にゴミが入って」
「そうなの。大丈夫?」
「ああ、もう取れたみたいだ」
「良かった」
 安堵した鈴芽はニッコリと微笑んだ。優しげで温かい微笑みに、自分の心が照らされ、
少し軽くなるのを清麿は実感じた。


 紅白が終わり、ホールを後にしてそのまま初詣へと繰り出した二人は、神社での参拝客
の多さに翻弄されていた。はぐれないように寄り添いながらなんとか最前列までくると、
賽銭を投げて手を合わせる。終わると参拝の列を抜けて、モチノキ町方面へ向かうバス乗
り場へと向かう。臨時バスが出ているのだ。
「水野は何をお願いしたんだ」
 長々と鈴芽がお願い事をしていたのを茶化して、清麿が問い掛けた。
「うふふ、内緒」
 鈴芽は人差し指を唇に当てて、教えようとはしない。
「あ、高嶺くん。おみくじ、引かない?」
 話しを逸らすように、鈴芽はおみくじ売り場へと行ってしまうので、慌てて清麿が後を
追った。

「やったぁ、大吉〜」
 鈴芽が無邪気に清麿に見せてきた。とても嬉しそうだ。
「高嶺くんは? どうだったの」
「オレも大吉だよ。ほら」
「本当だ、お揃いだね〜」
 清麿のおみくじを、鈴芽は感心したような唸り声を上げながら、まじまじと眺めた。二
人はそれぞれのおみくじを木の枝にくくり付け、夜店を眺めながら、ゆっくりと歩いてい
く。
「あそこが臨時バスの発着場みたいだな」
 人だかりとバスの往来が多い場所が視界に入り、清麿は指差して鈴芽に示した。鈴芽は
爪先立ちでその場所を確認しようと背伸びした瞬間、人の流れに背中を押されて転びそう
になった。
「危ないっ!」
 とっさに清麿が鈴芽を支えた。体のバランスが保たれてほっとした鈴芽は、自分が清麿
の胸に顔を押し当て、腕の中に抱かれていることにやっと気付き、慌てて離れた。
「ごめんなさい!! 私ったらドジで……」
 頬に両手を当てながら鈴芽は謝った。不可抗力とはいえ抱き合ってしまったことに、耳
まで真っ赤にして照れながら謝る鈴芽の姿は初々しく、清麿はそんな鈴芽を可愛いと思い
始めていた。自然と頬が緩んでしまう。

「水野が無事ならいいよ。じゃ、行こうか」
 清麿が鈴芽に手を差し伸べる。戸惑いがちにその手と清麿の顔を交互に眺めた鈴芽は、
やがて清麿の手に自分の手を重ね合わせた。そして二人はそのまま手を繋いで、バス乗り
場へと歩いていった。


 モチノキ町へ帰ってきた二人は清麿の家までやってきた。お茶をご馳走するからという
清麿の言葉に甘えて、鈴芽は清麿の部屋へとやってきていた。ファンヒーターがフル稼働
で室内を暖めていく。
「おまたせ、はい。熱いから気を付けて」
 カップを両手に、清麿が部屋へとやってきた。一方のカップを手渡しながら、『着物に零
すなよ』と、鈴芽をからかう。ココアの優しい香りが鈴芽の鼻腔をくすぐった。
「いただきます」
 一言呟いて、鈴芽はココアを口に含んだ。ココアの温かさが全身に染み入るようで、鈴
芽はホッとため息をついた。
「でもこんな時間にお邪魔して、おばさんに迷惑じゃなかったかな?」
 鈴芽はカップの中で揺らぐココアを眺めながら、清麿に聞いてみた。
「お袋ならいないよ。親父に逢いにイギリスに行ってるんだ」
「えっ、それじゃあ……」
「そう。今この家にいるのはオレと水野だけってこと」

 室内が静まり返った。二人は黙ったまま、ココアをすすっている。
「なぁ、水野」
「はいっ、あっ、何?」
 妙な沈黙を先に破ったのは清麿だったが、あからさまに動転した鈴芽の返事が可笑しか
ったのか、清麿は吹き出すように笑い出した。鈴芽は気恥ずかしそうに目を伏したが、や
がて清麿につられるように一緒になって照れ笑いした。ひとしきり笑ったあとは緊張も解
け、何気ない会話をしたのち、鈴芽は空のカップを机に置いて立ちあがった。
「じゃあ私はそろそろ帰るね。今日はとても楽しかった。ありがとう、高嶺く…えっ!?」
 清麿は帰りかけた鈴芽を後ろから抱き締めた。
「た、高嶺くん?」
「………なよ」
「えっ…?」
「帰るなよ」
 清麿の声は小さく擦れ、真摯な思いが込められていた。鈴芽は高鳴る鼓動を清麿に悟ら
れないように、出来るだけ冷静に言葉を選んで清麿に話し掛ける。
「ダメだよ。高嶺くん……好きな人がいるでしょ? 誰かは知らないけど、それだけは分
かるの。いつも……高嶺くんのこと、いつも見てたから。だから、分かるの」
 我慢して強がってみても、鈴芽の声は上擦ってしまっていた。体が清麿の腕の中で小刻
みに震えている。

「たしかにオレにとって『あの人』は年上の女性で、憧れの存在だった。でも」
 清麿は言葉を切ると、鈴芽を抱き締める腕に力を込めた。
「本当に大切なのは、水野……お前だったんだ。辛かった時そばにいてくれた。近すぎて
見ようとも、気付こうともしなかった」
「高嶺くん……」
「ごめん、たくさん傷付けたね」
「ううん」
 清麿が腕の力を抜いて鈴芽を解放すると、鈴芽はくるりと清麿のほうに向き直った。目
尻に大粒の涙を溜め、それでも真っ直ぐに清麿を見つめてくる。
「きっと高嶺くんを、たくさん困らせることになっちゃうよ」
「オレも水野をたくさん困らせるから」
「料理とか女の子らしいこと、何も出来ないよ」
「これから少しずつ出来るように、練習していけばいいよ」
「こんな私で、本当にいいの?」
「水野じゃなきゃ、ダメなんだよ」
 清麿はそっと鈴芽の左頬に手を当てると涙を指で拭った。そうすることで自然と鈴芽の
瞼が閉じられる。清麿はさくらんぼのような鈴芽の唇に自分の唇を重ね合わせ、スッと目
を閉じた。

 帯あげに始まり、振袖、長襦袢と鈴芽は外側から順番に、まとっている着物を一つづつ
外していった。和装特有の重鎮な絹の擦れる音が清麿の部屋に響く。やがて肌襦袢だけに
なった鈴芽は、振袖など脱いだものを丁寧に畳み終えると、ベッドに腰掛けている清麿を
振り返った。鈴芽は子犬のようなすがる眼差しであったが、色々な心情が入り混じっている。
 清麿はすくっと立ち上がり、鈴芽の方へと歩み寄る。恥ずかしそうに俯いた鈴芽の髪を
ほどくと軽々抱き上げ、清麿はベッドにそっと鈴芽を横たえた。そして自分もベッドへ上
がり、鈴芽の身体と重ね合わせる。
「水野……」
「高嶺くん……」
 二人は互いに求めるように名を呼び合うと、唇を重ねた。
 清麿の舌が鈴芽の唇のラインを描くように動くと、次に鈴芽の口腔へと忍んでくる。戸
惑いからか、鈴芽は歯を閉じて、清麿の舌の侵入に抵抗をしていたが、唇の内側や歯茎を
舐め尽くされ、抵抗する力を封じられてしまう。歯列をこじ開け、鈴芽の舌を捕らえた清
麿はわざと粘着質な音を立てて、激しく絡ませてみせた。
「ん、ああっ……」
 絡みつく清麿の舌に翻弄され、鈴芽は清麿の着衣を握り締めながら、わずかにくぐもっ
たため息を漏らした。舌と唾液のねっとりとした感触が鈴芽の舌を過敏にさせ、鈴芽は呼
吸も忘れるほどに、清麿の口付けに魅了されてしまっていた。

 踊るような清麿の舌の動きに、最初は成す術を持たなかった鈴芽も慣れてきたのか、ぎ
こちないながらも自分から絡ませるようになってきた。そして二人は長い時間、貪るよう
に唇を重ねていた。
 唇が離れ、荒い息の中、二人は互いの顔を見やった。二人ともやや汗ばんで、真っ赤に
なっており、気恥ずかしそうな笑みを浮かべている。
 清麿は鈴芽の肌襦袢に手を伸ばした。じれったさがあったが少しずつ外していくことで、
期待感も膨らんでいく。
「あっ!!」
「キャ!!」
 紐を外し、前身頃を広げた清麿は声を出して驚いた。鈴芽も慌てて自分の胸を両手で覆
い隠す。鈴芽はブラジャーを着けていなかった。
「和服の時は…付けない方が良いって。だから……」
 ブラを付けていなかったことを恥ずかしがり、鈴芽は身をよじった。思いのほか膨らみ
のある二つの果実は鈴芽の手では覆い切れず、それが返って清麿の欲情を掻き立てた。顔
や首すじにちゅっちゅっとキスをしながら、鈴芽の腕を撫で回す。
「隠さないでよ。その……やりにくいし…」
 気の利いた言葉を言えず、清麿はストレートに懇願した。鈴芽はしばらく躊躇っていた
ものの、その間にも耳や首の愛撫に刺激され、身体が痺れるような感覚に身悶えた。恐る
恐る両腕をベッドへ投げ出して、鈴芽は全身を清麿にさらけ出した。

「可愛いよ、水野」
 清麿は真っ赤になって顔を逸らしている鈴芽の耳元でそう囁くと、両手で鈴芽の果実を
包み込み、優しく揉みしだいた。柔らかいのに弾力があって、清麿の手に馴染むその果実
は白く滑らかで、先端にあるピンクの突起を指先で弾くと、鈴芽の身体はピクピクと反応
を返してくる。
「んんっ、ああああ! 高…嶺く、んっ!」
 鈴芽は初めて味わう感覚に戸惑い怯えていた。身体の芯がジンと熱を帯び、清麿に揉ま
れるたびに、快感が鈴芽を押し上げてくる。特に乳首をいじられた時の刺激は、脳天を貫
かれたように目の前が弾けて、ガクガクと身体が震えた。
「水野は、乳首が弱いみたいだな」
 そう言って、清麿は片方の乳首に吸いついた。片方の乳首は指で丹念に責め上げる。
「んっ……は、はぁ……あっあっ…たか…み……んんんっ!」
 鈴芽は喉を仰け反らせながら全身を強張らせ、突き抜ける快楽に喘いだ。たっぷりと唾
液を絡ませた清麿の舌に執拗に責められ、突起はさらに固さを増してくる。固く目を瞑り、
浅く荒い息をつきながら、鈴芽は快楽に耐えうるようにシーツを握り締めた。自分の身体
が燃えるように熱く感じ、頭の中が真っ白になる。
 乳首の愛撫が収まり、鈴芽は肩で息をしながらそっと目を開けた。清麿が少し嬉しそう
に鈴芽のことを覗き込んでいた。

「すごく気持ち良さそうだったよ」
 そう言われて、鈴芽は羞恥心に頬を染めた。バカ、バカと言いながら、清麿をポカポカ
と叩く。
「ちょっと、コラ…やめろって」
 鈴芽の拳を片手で払い除けていた清麿であったが、恥ずかしさのためかしつこく叩いて
くる鈴芽を止めるため、両手首を掴むとベッドへ押さえつけた。そして再び鈴芽に深く口
付ける。
「ここから先へ進んだら、オレ…もう自分を止められる自信がない」
「…高嶺くん…」
「本当にいいのか? 今ならまだ引き返せる……」
 鈴芽の髪を撫でながら、清麿は努めて平穏な口調で言った。本心を言えば、ここで止めたくはな
かったが、嫌がる鈴芽に無理強いはしたくない。理性が勝る今なら、我慢することが出来るだろう。
しかし鈴芽は清麿の手を取ると、自分の胸へと押し当てた。この行動と柔らかい感触に、清麿は一
瞬たじろいだが、やがて伝わってくる微かな鼓動に目を瞬かせた。
「ドキドキしてる…でしょ? 全然怖くないって言ったら嘘になるけど、高嶺くんを好きな気持ちの方
が大きいの。高嶺くんとこうしていられるのがとっても嬉しいの」

 胸に押し当てていた清麿の手を両手で包み込むと、鈴芽はいとおしそうに頬ずりした。
「高嶺くん、大好き」
「水野……ありがとう」
 鈴芽を抱き締めながら、清麿は鈴芽に囁いた。そのまま耳たぶを甘噛みしながら、鈴芽の身体の
下から肌襦袢を取り除いた。清麿は鈴芽の足元へ体を移動させると、可愛いチェック柄のパンツに
指をかけた。強張る鈴芽の身体をなだめるように内股を撫でながら、清麿はゆっくりとパンツを下げ
ていく。乳房の愛撫ですでに濡れそぼっていた秘所は、透明な蜜を滴らせており、光輝いていた。
「そんなに見ないで…。恥ずかしい」
 足を閉じようとする鈴芽であったが、清麿は自分の身体を強引に割り入れ、それを阻止する。
「水野のココ、とても綺麗だよ」
 親指でクリトリスを揉み押さえながら、中指の腹で下から上へと何度も割れ目をなぞると、鈴芽は
鼻にかかった甘い吐息を洩らしながら、身体をよじった。下腹部からじわじわと広がる疼きに、鈴芽
の身体が紅潮していく。
「それに良い匂いがして、甘い」
 割れ目をなぞっていた清麿が、蜜の絡みついた自分の指を舐め始めた。
「やめて…汚いよ」
 高嶺くんが自分のいやらしい愛液を舐めている。そう考えるだけで、鈴芽は顔からは火が出そう
になった。清麿を見ないように顔を横に背けて、羞恥心に耐える。

「汚くなんてない。そんなわけないだろ? だからもっと良く見せて」
 鈴芽の返事を待たずして、清麿は鈴芽の大切な部分に口付けた。弾かれたように、鈴芽の身体
が弓なりに仰け反り、清麿の口が触れている部分から脳天にかけて電流が走ったような衝撃に駆ら
れる。
「あ、あああああああぁ……んっ!!」
 足を閉じようとしても、清麿の身体が邪魔してそれを許さず、鈴芽は清麿の頭に手を当てて、押し
のけようとした。清麿の舌が先ほどの指と同じく、割れ目に沿って上下に揺らめき、溢れる蜜を掬い
取っていく。
「はぁっ、はぁっ、……ん、ふぅ…た、か……ああー……っ!!!」
 荒い息と喘ぎ声しか発せられないほど、鈴芽は感じていた。清麿の舌が敏感なところを舐める度
に、背筋を這い上がる快楽は、これまでに味わったことのないものだった。清麿に恥ずかしいところ
を舐められているといる事実が、一層鈴芽の羞恥心を煽り、身体が震える。くしゃくしゃと清麿の髪
を掻き乱すことで、鈴芽は自我を保っていた。
 大陰唇と陰核に舌を這わせ、清麿は満ち足りた気持ちになっていた。自分の行為によって嬌声
を上げながら快楽に悶える鈴芽を見ていると、愛しさと同時に男としての自信が溢れてくるようだっ
た。時折深い部分へ舌を押し込むと、鈴芽は感度が良いようで、嬉しい反応を清麿に返してくる。
甘い吐息と紅潮する鈴芽の肢体。それらに刺激され、清麿の怒張がズボンの内側で、窮屈そうに
存在を主張していた。

「水野。オレ、もう……」
「うん、いいよ……」
 二人は肩で息をしながら、見つめあった。互いに気持ちを確認し合うと、清麿は一旦ベッドから降
りて、着衣を手際良く脱ぎ始めた。鈴芽と同じく、一糸まとわぬ姿となって、改めて鈴芽のほうを振り
返ると、鈴芽はビクンと身体を硬直させた。鈴芽の視線の先には清麿の屹立した一物がある。鈴芽
にとっては、今から受け入れるソレを初めて目の当たりにするのだから、圧倒されたのだろう。清麿
は再びベッドへ上がり、鈴芽に圧し掛かるように身体を重ねた。互いの体温や肌の感触が直に伝
わってくる。
「じゃあ、いくよ。力を抜いて」
 脈打つ自分自身を持ち、清麿は鈴芽の蜜壷へとあてがった。少しずつ鈴芽の中へと押し進めよう
とするが、穢れを知らぬ鈴芽の花弁は、容易に清麿を迎え入れてはくれなかった。やっとのことで
先端が入るも、その抵抗力の大きさを思い知ることとなる。
(水野の中、キツすぎる……)
 清麿自身を締め付ける熱い肉壁を擦りながら、掻き分けるようにして更に奥へと突き進む。涙と汗
で顔を濡らし、痛みで苦悶の表情を浮かべながらも、唇を噛んで耐えようとする鈴芽がいじらしく
て、清麿は身体を密着させ、腰を抱きかかえるようにして、痙攣する鈴芽を包み込む。
「水野、痛いか? スマナイ……。どうすれば痛みが和らぐのか、オレには分からない」

 すまなそうに眉をハの字にさせて、清麿が鈴芽の顔を見つめた。潤んだ瞳をうっすらと開け、清麿
を見た鈴芽は、安心させようと無理して笑顔を作った。
「私なら……大丈夫。高嶺くんと…繋がっている証だ…から」
 清麿の背中に腕を回し、鈴芽は必死で激痛に耐えた。清麿の背中に爪を立てるほどに強くしが
みついて、止めど無く涙を溢れさせる。うわごとのように清麿の名を呟きながら、鈴芽は清麿の温も
りを全身で感じていた。
「好きだよ、水野。大好きだっ!」
 体重をかけて、清麿は一気に鈴芽を貫いた。ひときわ大きく仰け反った鈴芽は、不規則で荒い吐
息を洩らしながらピンと身体を強張らせ、清麿を抱き締める腕に一層力を込めた。
(高嶺くんの熱くて固いモノが、私の中に……)
 そう思うと、鈴芽は幸せだった。愛する清麿に身も心も捧げられたことが、痛みにも勝る喜びとなっ
て鈴芽の全身を駆け巡った。清麿の匂い、感触、言葉……その全てが鈴芽を包み込んでいた。女
として生まれて良かった。心から鈴芽はそう思ったのだった。
 鈴芽の最深部まで深く突き刺しながら、清麿は鈴芽の中の心地良さに浸っていた。生暖かくて柔
らかく、それでいて清麿のモノを咥えて離さない、程よい締め付け具合に清麿は酔いしれた。背中
に食い込む鈴芽の爪の痛みすら、今はどうでも良いほど鈴芽が愛しくて仕方がなかった。身体をピ
ンク色に蒸気させて艶やかな表情を見せてくれる。自分だからこそ見せてくれる。そういう思いが清
麿の血をたぎらせ、感情を昂ぶらせた。

「動くよ…いいね?」
 押さえ切れない衝動に駆られ、それでも鈴芽を気遣って清麿は声をかけた。コクンと小さく頷く鈴
芽の、その切なげな瞳に清麿が映っている。清麿は背中に回っていた鈴芽の左手を取り、自分の
右手を重ね、指を絡ませた。一呼吸置いた後、清麿はそっと腰を動かし始める。
 刹那、耐えるような呻き声が自然と鈴芽の口から洩れた。重ねた清麿の手を強く掴んで、襲い来
る激痛を受け流そうと身をよじった。破瓜したことを示す赤いものが、鈴芽の蜜に混じって二人の結
合部から腿を伝い、シーツを染めていく。二人の荒い息使いと、泡立つような淫靡な水音と肌の弾
ける音。そしてベッドの軋む音だけが部屋を包んでいた。
「あっ……、んっ…ああぁ……っ!!」
 鈴芽の最奥を突き上げ、肉襞を蹂躙する清麿のモノが別の生き物のように力強く脈打ち、鈴芽の
身体は熱を帯びていった。痛みと、いつのまにか生まれていた快感が混濁して、鈴芽は手放してし
まいそうな意識を必死で繋ぎ止めた。それなのに、感覚は研ぎ澄まされたように敏感で、直接伝わ
ってくる性感帯への刺激に抵抗出来ず、その身を委ねるしかなかった。徐々に湧き上がる快楽のう
ねりが鈴芽の全てを蝕んでいく。
「……水野…くぅっ、水野……」

 一心不乱に清麿は鈴芽の身体に自分自身を突き立てた。甘くも切ない鈴芽の声を耳にし、艶や
かに乱れる姿が清麿を煽り、下半身に更なる力を込めさせた。鈴芽への想いが後から後から溢れ
てきて、清麿はその衝動を止めることが出来なかった。
(遠回りしてしまった……)
 自分の本当の気持ちに気が付かず、恵に翻弄されてしまったことを清麿は悔やんでいた。本来
なら嫌われても仕方のないことをしてきたのに、鈴芽はそんな自分を受け入れ包み込んでくれた。
(もう……迷わない!)
 清麿の動きが一段と速度を増し、それに呼応して鈴芽の胎内が急激に収縮する。快感を共有し、
同じ想いを抱いている二人は、一つとなって急速に高みへと駆け上がっていった。
「高嶺くんっ! 高嶺くんっっ!!」
 目前で花火が飛び散り、鈴芽は絶頂を迎えた。仰け反ったまま、身体を硬直させて、歓喜の嬌声
を上げる。清麿も限界に達し、鈴芽の胎内から引き抜くと同時に射精し、白濁の液体が鈴芽の身体
に降り注がれた。果てた二人は、汗で滲んだ肢体を蒸気させて、荒い息をついてベッドに身体を投
げ出した。
「すごく良かったよ、水野」
 そう言って清麿は汗で額にまとわりついた自分の髪を掻き揚げ、次いで鈴芽の髪を手で梳いた。
「高嶺くんだって…その…すごかったよ」
 顔を真っ赤にさせ、消え入りそうな声で鈴芽も囁く。

「体は大丈夫か? どこか痛いところ、ない?」
「ちょっとだけ、けだるいかな?…でも、大丈夫」
「動けるなら、シャワーに行ってこいよ。ベトベトにさせてしまったし…」
 すまなそうに清麿は言うと、起き上がってタンスから大き目のセーターを取り出した。それを見てい
た鈴芽はゆっくりと上体を起こし、ティッシュで簡単に体を拭くとベッドから降りて、差し出されたセ
ーターを受け取った。
 鈴芽がシャワーを浴びている間、清麿は自分も着替えたり、ベッドのメイキングをしたりと大忙しだ
った。特に着物の着つけと、ヘアメイクのノウハウをネットで検索し、手順を暗記するのに一番時間
を費やした。その結果、シャワーから戻ってきた鈴芽に覚えたばかりの知識を実践し、なんとか上手
くこなして鈴芽を驚嘆させた。
「高嶺くん、すご〜い。着付けやヘアセットも出来るんだ……やっぱり高嶺くんは天才だよ…」
「ま、まぁな。プロには劣るけど、こんなもんだろ?」
 姿見の前に立った鈴芽は全身を確認しながら、清麿を褒めちぎった。あまりにストレートに褒める
ので清麿は照れ臭がったが、悪い気はしない。
「ほら、水野。あっち、もうすぐだ」

 清麿は窓の外を指差して、鈴芽を手招きした。鈴芽はまだ暗い窓の外に目をやるが、街灯や建
物の電気がまばらに点いているぐらいで、さほど変わった様子はない。いぶかしんで、鈴芽は清麿
を見上げるが、清麿も窓の外を眺めているので再び視線を窓の外へと移した。しばらくすると空がう
っすらと白ばんでいき、朝日が町を照らし始める。
「うわぁ〜、初日の出!」
 なんと清麿は、ネット検索で日の出の時刻をチェックしていたのだ。鈴芽は感動のためか、頬を紅
潮させながらキラキラした瞳で、昇る太陽を見つめていた。胸の辺りで手を組み、何か祈っているよ
うにも見える。
「あけましておめでとう、水野」
 鈴芽の肩に手を置いて、清麿はぐいと鈴芽を引き寄せた。
「おめでとう、高嶺くん。今年もよろしくね」
 二人は新年の挨拶を交わすと、唇を重ね合わせた。
 そんな二人を祝福するように、朝日は金色に輝き、二人を照らしていた──




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