St.R ◆St.R5157.E @737


 ギシッ…と、鎖の軋む音がした。
 覚醒したての意識はまどろみ、思考能力を著しく低下させいていた。
(ここは……?)
 顔を持ち上げ、辺りを見回そうとして、恵はやっと違和感に気付きはじめた。身じろぎ
すると再び鎖が軋み、両の手首に圧迫感が伝わる。その時になって、恵は自分の状態の異
様さを把握した。
 天井から垂れ下がる一本の鎖。その先端に両手首を繋がれ、かろうじてつま先立ち出来
るように吊るされて、目隠しが施されている。
「なによ、これっ…!?」
 腕に力を込めて引っ張ろうとするが、鎖はびくともせず恵の体重を支えている。足場が
悪く踏ん張れないのも、力を込められない要因になっているようだ。
「あら、目が覚めたみたいね」
「だ、誰っ!?」
 艶やかで透明感のある女性の声に、恵の全身に緊張が走る。全く人の気配なんて感じな
かったのに、その声は恵からそんなに離れていない真正面から発せらた。
「ウフフ、名乗ってもあなたには分からないと思うわ。大海 恵さん」
 コツ、コツ、という足音が、恵の回りをゆっくりと旋回する。
「私のことは知っているみたいね。目的は何なの?」
 名前をフルネームで呼ばれた恵は、精一杯の虚勢を張って言い返した。自分だけが捕ま
ったのか、ティオにも被害が及んでいるのか、相手の正体が分からない現時点では検討が
つかない。迂闊なことは言えなかった。

「目的…? そうねぇ、はるばる日本まで、愛しい人を迎えにきたのに振られちゃって。
傷心だった私は偶然テレビであなたを見て、『こんな可愛い子に慰めてもらいたい』なんて
思ったから……かしら?」
 芝居がかった言い回しで女は答えると、クスクスと笑った。恵にはその女の言っている
意味が理解できなかったが、少なくとも魔本を狙っているわけではないことだけは分かっ
た。恵は少しだけ安堵した。
「バカなこと言わないで。こんなことしてただで済むと思っているの?」
「あら。意外と気の強い面も持っているのね、ますます可愛いわ。でも自分の立場を理解
した方が良くてよ?」
 足音が止まる。押しつぶされそうな重圧感を受けながら、恵はそれでも毅然と振舞う。
内心の恐怖と戦いながら。
「あなたこそ自分が何をしているのか、分かっているの!? これは立派な拉致よ。今な
らまだ許してあげるわ。だから……」
「だから、何? 身動き取れないのに、凛々しいのね。気丈さと言い、そういうところは
彼女とそっくりだわ」
 ふと女の声のトーンが下がった。その変化を、女が説得に応じようとしていると思った
恵は、さらに言葉を続けた。
「彼女って友達ね? そうよ、あなたが今やっていることを知ったら、彼女が悲し……」
「うるさいわね…」
 女の豹変ぶりに、恵は思わず口を噤んだ。酷く冷たい汗が、背筋を流れていく。
「本当にあなたは彼女にそっくりよ。その気位の高いところ、屈させてしまいたくなるわ」

 今までとは違う、感情の読み取れない女の口調に、恵は戦慄した。本能的に湧き上がる
恐怖に身震いし、鳥肌が立つ。
 再び足音が響き始める。背後から段々と近づいてくるのが感じられた。恵はくるりと向
きを変えると、足をバタバタさせて女の進行を妨げた…はずだった。
 突如、向きを変えたはずの恵の背後から、左腕が腰回りを支えるように伸び、反対の手
であごを掴まれた。完全に不意を突かれた恵は、背後の人物に押さえられて動くことが出
来ない。
「ありがとう、助かったわ」
「ええっ!?」
 背後の人物こそ、恵が会話していた女であった。女は感謝の言葉を述べると、足音は再
び遠ざかり、やがてソファーに腰を下ろしたようなふくよかな音がした。
(女の他に誰かいる!?)
 恵はもう一人人物がいたことに驚いたが、今は流暢に構っている時ではなかった。
「わ、私をどうする気?」
「悪いようにはしないわ。だって、私は優しいのよ。ただ本当に、あなたに慰めてほしい
だけなんだから」
「慰めるって…きゃあっ!!」
 腰とあごを掴んでいた女の手が、恵の両胸を掴み、服の上から掌を押し付けるように揉
み始める。思いがけない女の行動に、恵は堪らず声を上げた。
「何をするの!? やめて、いやぁぁ!」
 恵は抵抗するように、身を振った。チャラチャラと鎖が鳴るが、女の手は止まらない。
むしろ、恵が動くことによってそれが新たな刺激となってしまっていた。

「あなた、着痩せするタイプなのね。思ったよりも大きいわ、フフフ」
 恵の耳元で女が囁く。服の上からでも分かる、ムニュムニュとしたマシュマロのような
弾力のある胸を、女は強弱をつけながら揉みしだく。目隠しされている恵は見えない分、
伝わり具合が敏感になっており、やめるように懇願する泣き声に、甘い吐息が混じり出す
ようになった。
「お願い、やめ…あ、やめて……」
「『やめて』と言いながら、少し感じているみたいね。服の上からじゃ、じれったいでしょ
う? でも、時間はたっぷりあるんだから焦ることないわ。ゆっくりいきましょう」
 女の手が全体を揉む単調なものから、指先を使う変則的なものへと変わっていった。布
越しであるがゆえに、女の手が闇雲に動いて、恵を刺激する。ブラジャーのラインをなぞ
ったり、頂きを突つかれたりと、もどかしいような手探りの愛撫が続く。
「あっ…、はぁ……」
 声を出さないように唇を噛む恵であったが、女の抱擁は強く大胆で、それによって相乗
された衣の擦れに一層感じてしまい、不覚にも声が出てしまう。その恵の反応が楽しいの
か、女は手を休めない。
「気持ちいいんでしょ? だったら我慢しないで、声を出した方はいいわ。そのほうが私
もやりがいがあるし」
「ば、バカなこと言わないで。いやなのよ! 私から離れて!」
「素直じゃないわね。乳首だってこんなに固くなって上向いているのに」
 女の指が、恵の乳首を的確に捉えた。ビクンと恵の身体が弾け、悲鳴が上がる。服とブ
ラジャーに遮られ、摘まむことが出来ないため、女は押すようにして乳首だけを攻める。

「い、や……、っん、あぁ…」
 恵はそれが何の抵抗にもならないことをすでに知りつつ、それでも女の手から逃れよう
と身体を左右に振った。犯されているというのに、身体は微熱を帯び始め、抗い難い快感
に疼き出す。そんな自分の身体を恨めしく思いながら、恵はそれでも出来うる限りの抵抗
を試みた。
「必死で抵抗しちゃって……可愛いわ。こういう子の自尊心、めちゃくちゃにしてあげた
くなる」
 女は左手で胸の愛撫を続けながら、もう片方の手で恵のスカートをたくし上げ、太もも
を撫で始めた。膝丈ほどのスカートがめくれ上がり、女の手首から先をすっぽりと隠して
しまっているが、スカートが波打つほどに撫で回している。
「ああっ…、だめぇ……」
 内股を擦り合わせるように、恵は足を閉じた。しかし女の手はまるでヘビのように、強
引に恵の腿を這いずり回り、上へと登ってくる。
「いやぁ、来ないで……、んんっ!」
 女の指が恵の秘所に触れた。パンティー越しに割れ目を一撫でされただけで、恵は深い
吐息を漏らした。
「パンティーが湿ってない? 胸の愛撫と足だけでこんなに濡れるなんて、淫乱なのね。
それとも感じやすい身体なのかしら、フフフ」
 女は恵の両足に自分の片足を割り入れて隙間を作ると、パンティー越しに秘所を責めた。
割れ目を優しく、時には深くなぞると、恵は無意識に腰を引いたが、後ろから押さえつけ
られているため逃げ場がなく、与えられる刺激を全てその身に受けていた。

 すでに抵抗の言葉はなく、喘ぎ声しか出せない恵は、女にされるがままであった。激し
く鎖が鳴り軋むほど、恵の身体は震えている。女の愛撫は同姓であるために、繊細でツボ
を心得ており、恵はこれまでに感じたことがないほどの快楽を味わっていた。
(いやなのに…襲われているのに、私、感じちゃってる)
 拘束され、どこの誰かも分からない女性に犯されて、しかも別の誰かに見られていると
いうのに、興奮している自分自身が、恵は信じられなかった。弄ばれるクリトリスや、膣
口に指を立てるようにしてリズミカルな刺激を与えられ、恵のパンティーはまとわりつく
ほどに濡れて、吸収しきれない愛液が、足を伝わって垂れてくるほどであった。
「前戯はこれぐらいでいいわよね?」
 女が愛撫の手を引き、恵から離れた。絶え間なく責め苦を受けていた恵は全身に力が入
らず、ぐったりと鎖に支えられている。顔は紅潮し、汗が滲んで、運動したあとのように
息を荒げていた。
「恥じらいに染まった姿も綺麗よ」
 女は恵の顔を両手でいとおしそうに撫でると、唇を重ねてきた。唇が触れるだけの軽い
キスであったが、恵は抵抗しなかった。いや、出来なかったのだ。身体が熱く、痺れるよ
うな感覚が四肢の自由を奪い、抗う力を低下させているのだ。
 女は唇を離すと、自分の唇の端をつりあげた。恵は気付かないが、女は妖艶な笑みを浮
かべて恵を見ていた。その瞳は、小動物を狙う雌豹のようだ。
 二人は再び唇を重ねた。しかし今度は恵を抱き寄せて、後頭部を押さえるようにして唇
を密着させ、舌を恵の口腔へと忍び込ませる。抵抗されないことを確認しての、女の行為
であった。たやすく舌を受け入れてしまった恵は、女の舌に自分の舌を絡め取られ、唾液
を注ぎ込まれてねちゃねちゃと掻き回された。

「んんんっ、うう…っん!」
 口を塞がれて、恵は篭ったような唸り声を上げた。唇の端から唾液が洩れて、恵のあご
のラインを描いて垂れていく。長いディープキスの果てに唇が離れると、二人の舌を銀の
糸が引いて──そして、切れた。
「ウフフ、美味しい」
 女はペロリと自分の唇を舐めると、次に恵の首筋に顔を埋めた。舌を這わせながら、女
は恵の着ているベストのボタンを外し、続いてブラウスのボタンも外そうと手をかけた。
「お願い…もう、これ以上は許して。私、もう……耐えられない」
 涙声で恵は女に訴えたが、それは女の嗜虐心を煽るだけであった。しかし、女はあくま
で優しく恵に接してくる。
「可愛い恵、耐える必要なんてないのよ。我慢せず、心を解放してあげればいいだけ。私
に身も心も委ねて…あなたは感じるままにしていればいいのよ」
 恵の頬にキスの雨を降らせながら、女はブラウスのボタンを外していき、前身をはだけ
させた。衣類の隙間から覗く純白のブラジャーに包まれた豊満な胸と、薄桃色に染まった
肌が瑞々しい張りを持っていた。女は次に、スカートのホックとファスナーを外して、床
へと落とし、それを拾い上げて投げ捨てる。
「素敵ね。嫉妬しちゃうわ」
 女は人差し指で恵の肌の上を不規則になぞり、肌の滑らかさを味わっていた。恵はあら
れもない姿にされたことのへ羞恥心と、これからされるであろう行為に、例え様のない屈
辱と嫌悪を感じていた。

(助けて……ティオ。……清麿くん)
 二人の顔を思い浮かべて、恵は嘆いた。特に清麿のことを思い出すと、恵の胸は張り裂
けそうに痛み、後悔の念に駆られる。
(あの時、清麿くんを拒まなければ良かった……ごめんね、清麿くん……)
 心の中で恵は、何度も清麿に謝った。
 恵はすでに、男を知っていた。デビューしたての頃に、歌番組のプロデューサーと関係
を持ったことに始まり、何人もの男と売淫を重ねてきた。「仕事」の一環と割り切っていた
が、人気が安定してきた頃には、そういう仕事も少なくなった。
 ティオと出会ったのは、そんな時期であった。人を拒絶したような、疑心に満ちた眼差
しが印象的で、なかなか心を開いてはくれなかった。一緒に暮らし始め、少しずつだけど
ティオに笑顔が見られるようになって、その屈託のない純粋さに打たれた恵は、その「仕
事」を止めた。幸い、止めても本業に支障はなかった。
 やがて恵は、清麿と出逢った。きっと一目惚れだったんだと思う。清麿のことが頭から
離れなくなった。だから、相思相愛だったと分かった時は、涙が出た。口付けを交わし、
清麿に求められた時、純潔を失っている恵は過去のことを清麿に知られるのを恐れ、どう
しても身体を許すことが出来なかった。清麿がまだ中学生だということを、とっさの言い
訳にして、恵は清麿を拒んでしまったのだ。
 乳房を強く鷲掴みにされた痛みで、恵は現実へと戻ってきた。女の指が、恵の白い乳房
に食い込んで暴れる。
「痛っ!! やめ、は…ぁ…っ! 乱暴し…ない……で! んぐ…っ!」
「痛いの? そうは見えないけど……。本当は悶えてるんでしょ? こんなにも乳首が立
って、ブラが窮屈そう。取ってあげるわ」

 そう言って女は、手を恵の背中に回してホックを外した。それから肩紐も外してブラジ
ャーを取り除くと、プルルンとした豊満な乳房と、ツンと上向いた乳首が露わになる。
「瑞々しく熟していて、今が食べ頃みたい。美味しそう」
 女は充分に湿らせた舌で、乳首を一撫ですると、恵は笛の音のような悲鳴を上げた。
「チェリーの味がする」
 恵の身体が揺れないように、片腕で恵の腰を抱き寄せると乳首に吸いついた。残った片
方の腕は乳房を揉みしだき、乳首を弄ぶ。女は口に含んだ乳首を、赤子のように吸い続け、
時々舌で転がしたり甘噛みしながら、集中的に頂きを責めた。
「ぅん、んーっ…、はぁ、はぁ。…あ…そんなに…吸われ、た…ら、あ、ぁあ───っ!!」
 甲高い叫びを上げて、恵が頭を仰け反らせて硬直したかと思うと、ぐったりとうなだれ
た。真っ赤な顔に汗をかいて、髪がへばりついている。呼吸が乱れ、足がガクガクと震え
ていた。
「イってしまうほどに、私の愛撫がお気に召したみたいで嬉しいわ。でも、もう少し我慢
することを覚えた方が良いわね。」
 女は恵から離れると、すぐに戻ってきた。カチャカチャと音がするのが分かるが、恵に
はそれが何なのか、分からない。
「動かないで、すぐに付けるから」
 そう言うが早いか、恵の乳首を何かが挟んだ。イッたばかりの敏感な身体は、軽くつま
まれただけで、鋭い快感を恵にもたらした。外れないように固定されたそれは重りがつい
ていて、恵の乳房を下へと引っ張る。
 それだけではなかった。次に女は恵のパンティーの中へ、うずら卵のような丸いものを
あてがった。丁度クリトリスの真下あたりになる。

「バイブ機能のついたローターと、ボディークリップよ。身体を馴らすには、丁度いいお
もちゃよ。感謝してちょうだい」
 恵は首を振って嫌がるが、女はそんな恵を気にも止めず、メモリを『弱』に合わせて、
二つのスイッチをオンにする。
「あっ、あっ、あっ、あ、あ、あ、あ、あぁぁぁぁ……」
 弱とは言え、今の恵には強すぎる刺激であった。二箇所を同時に責められ、振動は快感
となって全身に広がっていき、途切れることがない。肌がピリピリと痺れ、身体の内側が
膨張しているように疼き、熱い。微かなモーター音を響かせて腰をくねらせる恵の姿は、
官能的でなまめかしく、女はそれを、満足そうに目を細めて眺めた。
「はぁっ! あぁん、んんん──っ!」
 恵が嬌声を上げる中、女は流暢なしぐさで、白ワインを二つのグラスに注ぐと、片方の
グラスを手に取った。
「乾杯」
 チンッ…と、グラス同士を軽く小突いて、女はワインを口に含む。芳醇な香りと味わい
を楽しみながら、恵ではない誰かに話し掛ける。
「ねぇ、あなたはいいの? 私ばかり楽しんでいては申し訳ないわ」
「私ならあなたのおかげで、もう充分に堪能しました。次はあなたが楽しむ番です」
「そう? じゃあ、お言葉に甘えることにするわ」
 柔らかげな笑みを浮かべて、女は一気にリモコンのメモリを『強』にした。
「あぁぁ──っ!!」
 足をピンと張りながら、恵は痙攣し、髪を振り乱した。恵の身体を快楽が走り抜け、喘
ぐ口元からだらしなく涎が流れている。

(…もう、だめ……。私は、私は──!!)
 理性という名の枷が外れる音を、恵は心の中で聞いた。それを見透かされたのか、リモ
コンのスイッチが切られ、それと同時に鎖が緩められて、恵は崩れるように床にしゃがみ
込んだ。
「どう? 今の気分は?」
 全身を紅色に蒸気させて、肩を上下させる恵は唇を震わせて何かを言おうとするが、そ
れが上手く声にならない。女は跪いて恵の顎を持ち上げると、顔にへばりついた髪を優し
く払い退ける。
「さぁ、言いなさい。どんな気分?」
「……気持ち、…いい…です」
 擦れた声で度切れ途切れに言う恵に、女は甲高く笑った。
「よく言えました。良い子ね、恵。ご褒美よ」
 女は手にしていたグラスのワインを口に含むと、恵に口移しで飲ませた。ワインが注ぎ
込まれる度に、恵の喉が大きく波打つ。
「シェリー酒よ。私の好きなワインの一つ。美味しいでしょ?」
 ただでさえ熱を持っていた恵の身体は、アルコールによって一段と熱を持ち、冷めにく
くさせていた。半ば放心状態の恵を仰向けに寝かせて、女は自分のパンティーを脱ぐと恵
の顔の辺りに腰を落とした。自分のスカートをたくし上げて、恵に舐めるように命令する。
むせるような女の匂いに誘われて、恵はぎこちなくも舌を動かした。
「そう、あっ…上手よ。ん、ふぅ…」

 恵の舌の動きに、女は甘い声で喘いだ。目の見えない恵は、神経を舌に集中させて押し
付ける様に強く舐めて女に奉仕した。段々と女の吐息は熱を帯びていき、滴り出した女の
愛液を恵の舌が掬い上げて、ピチャピチャと音を立てた。女は自分の手で自分の胸を揉み
しだいて、恵の舌の動きに合わせて腰を動かした。
「いいわ、そう。……その調子よ」
 舌なめずりして、女は己の官能を高めていく。
「はぁはぁ…、お願い。私も……欲しいの」
 女の声に感化されて、恵の我慢も限界にきていた。口は女の秘部にむしゃぶりつきなが
ら、縛られた両手を自分の股間へと伸ばし、長い指をせわしく快感の赴くままに動かして
いる。
「そうね。一緒にイキましょうか」
 スクッと女は立ちあがると、ワインボトルの脇にある、小さな鞄からいびつなものを取
り出した。それはパンティーのようであったが、普通のものと違って、外側と内側に太い
棒のようなものが付いていた。女はそれを太ももまで履くと、内側の棒部分を摘み、自分
の膣口へ先端をあてがい、ゆっくりと奥へ注し込んでいった。根元までしっかり入り込む
と、パンティーが履けたことになる。女は熱の篭った長いため息をつき、外側になった棒
をいとおしそうに撫でた。それはまるで、男性のペニスそのものである。
 自慰にいそしむ恵の手を払い除け、女は恵のパンティーを剥ぎ取った。蜜が溢れんばか
りに潤い、ツヤツヤと光沢を放っている。女は中指を恵の膣へ注し込むと、指は何の抵抗
もなくするりと入り込み、粘着と襞の感触を伝えてくる。
「これなら問題ないわね」

 恵の足をM字に開かせて、女は割れ目を往復させるように、恵の愛液をペニスに塗りた
くった。充分すぎる量の愛液がペニスに絡みつき、恵の花弁がヒクヒクとモノ欲しそうに
蠢く。女はペニスを膣に当てると、ゆっくりじらすように押し進めていった。
「んぅ、……あああっ!はぁ、ぁ──っ!」
 背筋を仰け反らせて、恵はペニスの侵入に身体を震わせた。すんなりと奥まで咥え込み、
恵と女は肌を密着させる。
「簡単に根元まで入ってしまったわ。本当に淫乱なのね」
 そう言って女はクスクスと笑うと、律動を始めた。亀頭部分まで引き抜くと、再び奥の
子宮口まで一気に突き上げる。恵の身体全体が徐々に上へと押し上げられるように、激し
く肌を打ち付けあい、愛液が弾け飛んだ。ぐちゅぐちゅと淫靡な水音を響かせて、太く固
いペニスを突き立てられている恵は、快感に身悶えし、口からは歓喜の嬌声を上げた。
「んふぅ、あぁ、…い、気持ち、…い、い…。はぁぁ…」
 女の服を握り締め、恵は奥を突かれる度につま先までピンと突っ張って、襲い来る快楽
に酔った。頭の中はとうに真っ白で、何も考えることが出来ない。壊れてしまいそうなほ
どに、ペニスは恵の肉襞を蹂躙し、性感帯を刺激する。
 自分の中に埋まる棒の刺激と、恵のよがる姿に女も快感を満たしていた。特に、恵を乱
堕させたことは、何事にも代え難い充足感であった。腰の動きを早め、強く打ち付けて、
二人は一気に高みへと登りつめていった。
 腰を浮かせるほどに背を反らせ、恵が潮を吹いて、果てた。続けて女も身体を硬直させ
て、耐えるように下唇を噛みながらエクスタシーを迎えた。
 パチ、パチ、パチ、パチ……
「素晴らしいですよ、二人とも」

 たった一人きりの観客から、拍手と歓声があがった。女は恵からペニスを引き抜くと、
観客の元へと歩み寄り、小声で何か言葉を交わしている。何を話しているのか、恵には分
からなかった。今の恵は床に仰向けとなり、意識があるのかさえ見た目に分からないほど、
放心状態である。
「ミス恵……強制的にここへ連れてきた事は、お詫びします。しかし、あの乱れ様から、
あなたも楽しんだことと思いますが…」
 観客は反応しない恵に足音もなく近づくと、そっと額に手を当てて言葉を続ける。
「彼女はとても喜んでいます。感謝していますよ、ミス恵。ささやかですが、お礼をさせ
てください」
「お…礼?」
 額に触れる冷たい手が、今の恵には逆に心地良かった。まるで、心の中を涼風が吹き抜
けていくようであった。
「素直になれるおまじないです。さぁ、心のままにっ!」

 心の、ままに───


 雨が降っていた。
 か細く冷たい雨が、傘も差さずに立ち尽くす恵に、容赦なく降り注ぐ。自分がどうして
ここにいるのか、恵には分からなかった。ただ無性に、数々の男に慰み者にされたことへ
の嫌悪感に苛まれ、穢れてしまった自分の体を洗い流すべくこの雨に晒しているのが、当
たり前のような気持ちがしていた。
 ふと見上げれば、鉛色の空。顔を叩く雨粒に、恵は泣きたくなるような衝動に駆られ、
揺り動かされるようにある場所へと向かった。ふらふらと歩いて、やがて辿り着いた、見
知った一軒家。その玄関先に立ち、恵はインターフォンに指を伸ばした。




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