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今日は休日なのでティオが高嶺家に遊びに来ることになっている。
ガッシュはティオが来るのを待ちきれない様子で部屋の中を行ったり来たりしている。
「そんなに焦ってもティオが早く来るってわけじゃないぞ」清麿はガッシュの焦りぶりに半ば呆れながら言った。
「だって、早く遊びたいのだ!!そもそも、清麿が私と遊んでくれれば私もこんなにそわそわしないのだぞ!!」と言いながらガッシュは清麿に飛び付いた。
清麿は、ガッシュを払いのけながら「読みたい本があるから邪魔するなよ。」と軽くあしらう。
「ヌオォォォ!!ひどいのだ〜!!こうなったらバルカンと一緒に遊んでティオを待つのだ。」
しばらくすると、玄関のチャイムの音が聞こえた。「オオ、きっとティオなのだ!!迎えに行くのだ!!」そう言うとガッシュは勢いよく階段を駆け降りていった。
「やれやれ…。」と嘆息しつつ、清麿は再び読書に集中し始めた。
ガッシュはティオと階下で遊んでいるのか、部屋に来る様子はない。少し寂しいとも思ったが、これなら読書に集中できる。一気に本を読んでしまおうと思った矢先に、コンコン、とドアを叩く音がする。
普段、ガッシュは部屋に入る時にドアを叩かない。となると、ドアの向こうにいるのはティオだろう。
ガッシュと喧嘩でもしたのだろうかと思い、清麿は「はい、どうぞ。」と客人を迎え入れる。

すると、「おはよう、清麿くん」と声がした。
清麿はその声に驚いて振り向いた。見ると恵が微笑んでいた。
「め…恵さん!?なんでここに!?」
「今日は仕事がないのよ。それで、ティオがガッシュくんと遊ぶっていうから一緒に来ちゃった。…もしかして迷惑だった?」
「いや、とんでもない!!むしろ大歓迎さ!!」
突然の恵の訪問に清麿は焦っていたが、内心はすごく嬉かった。
『まさか、恵さんが来てくれるなんてな…。』
清麿にとって、恵はいちばん異性として意識している女性である。アイドル活動をしながら学業も魔物同士の戦いも頑張っている彼女を尊敬している。
そんな頑張り通しで張り詰めている恵を守りたいと思った。恵の心の支えになりたい。恵の笑顔が大好きだから、眩しい笑顔をずっと見ていたいと思う。
「そういえば、ガッシュとティオはどこに?」
「モチノキ町を探検するんだっていって張り切って出掛けていったわ。そういえば、今日はお母様も居ないみたいね。」そういえば、今日は町内会の集まりがあると言っていたような気がする。
…となると、今この家には清麿と恵の二人しかいないということになる。
清麿はそう考えると物凄く緊張してきた。顔が赤くなってしまっているような気がする。

恵さんは可愛いから仕方ない、と自分に言い聞かせる。今日の恵はキャミソールの上にカーディガンを羽織り、ミニスカートを履いているというスタイルだが、とてもよく似合っていると清麿は思う。
ミニスカートからすらっと伸びている脚がとても綺麗だ。つい見惚れてしまう。
「清麿くん?」恵に呼ばれて清麿ははっと我にかえった。
「どうしたの?何だかぼーっとしてたみたいだけど…。」
「いや、何でもないんだ。あ、恵さんその辺に座ってくれよ。ゆっくりくつろいで。」まさか、恵に見とれていたとは言えない。
ありがとうと言い、恵は清麿の向かいに座る。
そして、「私、男の子の部屋に入るの初めてなの。だからくつろいでって言われてもちょっと緊張しちゃうな。」と苦笑しながら言った。
しかも好きな人の部屋だし、という続きも出かかったが、それはまだ言えない。
恵にとっても清麿はいちばん意識している異性である。初めて出逢った時の優しい笑顔。それを思い出すと胸がドキドキする。魔物との戦いを通して彼の強さと優しさを知った。つまり、ここにはお互いを意識しあっている一組の男女がいるというわけだ。
だが、そんな二人の間に流れる空気は甘いものではなく、どことなく緊張が漂ったものになってしまう。

そんな緊張を拭おうと恵が口を開いた。
「ねぇ、今日は色々とお喋りしましょうよ!!」
突然の恵の提案に清麿は面食らった。
「えっ!?…急にどうしたんですか?」
「いや、私たちの付き合いも結構長いけど、お互いのことを知っているようであんまり知らないじゃない?」
「まぁ、確かにそうだな…。」と、清麿も同意する。
「私、清麿くんのことをもっと知りたいと思うし、清麿くんにも私のことをもっとよく知ってほしいなって思ったの。だめかな?」
『うっ…可愛い…。』
そんな風に困ったような上目使いで「だめかな?」と聞かれても誰も駄目だとは言えないであろう。清麿はそう思った。
しかし、恵の言うとおり、もっとお互いのことを知り合いたいと思うし、何よりも恵とお喋りできるのはすごく嬉しい。
だから、「いや、恵さんの言うとおり、今日は色々と話をしましょう。」と清麿は答えた。もとから断るつもりなど微塵もなかった。
「本当に!?よかった〜!!じゃ、早速語ろう!!清麿くん、最近何か面白いことあった?」
「えっ!?俺からなの?う〜ん…いきなりそういうこと聞かれても思いつかないもんだよなぁ…。」
「ごめん!!確かにそうよね。じゃ、もっと答えやすい質問にするね。清麿くんの趣味は何かな?」

それからしばらく、恵と清麿はお互いの学校のこと、恵の仕事のこと、趣味についてや自分の考え方についてなど、色々な会話を楽しんだ。
すると、恵が「ふう…。何だか語ってるうちに暑くなってきたわね。」と羽織っているカーディガンを脱いだ。
恵はカーディガンの下はキャミソール一枚しか着ていない。そのため、細い首やなだらかな肩が露わになる。
さらに、キャミソールの胸元から時々胸の谷間がちらっと見えてしまう。清麿は目のやりばに困ってしまい、少し顔を赤らめてしまう。
同時に『恵さん…他の男の前でもこんなに無防備なのか?』と、恵のあられもない姿を他の男に見られたくないという嫉妬や不安が芽生える。
清麿はそんな思いをかき消そうと、「恵さん、喉渇きません?」と尋ねた。
「うん、ちょっと渇いたかな。」
「何か持ってくるよ。何がいい?」
「紅茶がいいな。できれば冷たいミルクティー!!」
「紅茶は今家にはないんだ…。あ、近くにスーパーがあるからそこで買ってくるよ。」
「えっ!?そこまでしなくても家にある物で充分よ!?」
「いいから!!恵さんが飲みたい物を飲ませてあげたいし。すぐ戻ってくるから待ってて!!」と言うと、清麿はあっと言う間に階段を駆け降りてスーパーへと向かった。

「行っちゃった…。」と恵は残念そうに呟く。清麿の性格上、清麿は自分に気を使ってくれたのだろうが、もしかすると私と二人で居るのがつまらないのかもしれない。そう考えると不安になってしまう。
『カーディガンを脱いだのは、清麿くんの前だからなんだよ…。ちょっとドキッとさせてみたかった。清麿くんだったら全部見られても構わないのに…』
そう思い、顔を赤らめながら恵は清麿のベッドに横たわってみる。
『清麿くんは此処で寝てるんだ…。』
それにしても、今日は清麿と色々とお喋りできてよかったと思う。彼の色々な面を知ることができたし、何よりも楽しかった。
「やっぱり、私、清麿くんのことが好きなんだよなぁ…。」と呟き、寝返りをうつとふわりとある匂いが漂った。
「清麿くんの匂いがする…」
恵は嬉しくなった。もしも、清麿に抱き締められたらこんな匂いに包まれるんだろう、と考えると恵の顔はさらに紅潮する。
でも、いつか清麿が自分を抱き締めてくれる時が来るといいな、と恵は思った。
目を閉じながら、幸せな気分でそんな事を考えているうちに恵は眠りの世界に引き込まれていった。

一方の清麿も、本当はもっと恵と一緒に居たかったと思っていた。
しかし、恵のキャミソールから覗く胸元や、ミニスカートから時折見える太腿を見るたびに、自分の理性が壊れていくのがはっきりと分かる。
恵をめちゃくちゃにしてしまいたい、自分だけのものにしたいという自分が覚醒しつつある。「最低だよな、俺は。」と自嘲しながら道を歩く。
あのまま一緒にいたら、恵のことを押し倒しかねない。
欲望だらけの頭を冷やすために一旦恵と離れた。それは効果的だったらしく、紅茶を買い、家につく頃にはすっかり清麿はすっかり平常心をとり戻していた。
恵が待っている。そう思い、自分の部屋へと急ぐ。
「待たせてごめん!!紅茶買ってき…」と言ったところで、恵が自分のベッドで眠ってしまっていることに気付いた。
「寝ちゃったのか…。」
まぁ、色々と疲れていたに違いないと納得しながらも清麿は少し寂しく思う。
恵は安らかな寝息をたてている。恵の寝顔をまじまじと見てみる。
「やっぱり、綺麗だよなぁ…。」とつい呟いてしまう。
いけないと思いながらも、そっと頬を撫でてみる。すべすべしており、まるで卵のような肌だ。思わず頬にキスしたくなる衝動におそわれる。
その時、「ん…」と恵が寝返りをうった。

すると、衝撃的な映像が清麿の目に写る。
恵が寝返りをうった拍子にスカートがめくれ、下着が見えてしまっている。
『め…恵さんの下着が…!!』
見てはいけないと思いつつも、つい下着に目がいってしまう。恵の下着は白地に水色の水玉模様をあしらった可愛らしいものであった。
さらに今の恵の状態からは、豊満な胸の谷間も拝むこともできる。
それを見ていると清麿の欲望はまたも燃え上がってしまう。
恵にそのつもりがなくても(眠っているのだから当たり前ではあるが)、これは誘っているのだと思ってしまっても仕方ない、と清麿は思う。
清麿の理性は崩れる寸前まできてしまっている。
『少しくらいならいいよな…。』
と、誘惑に負けてしまった清麿は、恵の上に覆い被さった。清麿の腕の中には恵がいる。さらに、恵の顔と清麿の顔の距離は15センチほどしかない。
恵の桜色の唇を近くで見ていると、『キスしてしまおうか…。』という考えが頭をよぎる。
しかし、ほんの少しだけ残った理性がそれを阻む。相手の同意もないのにキスをするのは最低な行為だ。それに、もしも自分がキスをしてしまったら。好きでもない相手にキスをされたら恵は傷つくであろう。これでは守ってあげたいと思った女性を自ら傷つけてしまうことになる。

でも、恵を好きだという思いは溢れて止まらない。溢れる気持ちを恵に受けとめて欲しいと清麿は思う。
清麿がそんなことを考えているうちに、恵は目を覚ました。いつの間に寝てしまったのかと一瞬考え、意識がはっきりと覚醒すると、清麿が自分に覆い被さっているという状態に焦ってしまう。
「えっ!?清麿くん!?」
清麿は色々と考えることに夢中になっていたため、恵が目を覚ましていたことに気付いていなかった。恵が目を覚ましていたことに気付いた清麿は、今、自分が恵の上に覆い被さっているという状態にひどく恥ずかしくなる。
「ごめんなさい!!」と言い、ぱっと恵から離れた。
『最低なことしちゃったな…。絶対に嫌われたよな…。』冷静になり、自分のしたことを考えると、激しい自己嫌悪に陥ってしまう。
恵もさっきの状態にどぎまぎしながらも「ううん…こちらこそ、勝手に清麿くんのベッドで寝ちゃってごめんなさい。」と謝った。
しかし、二人の間に流れる空気は、先程よりもさらに緊張したものになってしまった。清麿はこの空気に耐えきれなくなり、口を開く。

「本当にごめんなさい!!恵さんの寝顔がすごく可愛かったから、ついあんなこと…。嫌な思いさせちゃったよな。」謝りながらも、キスをしようと思ったことは恐くて言えなかった。言えば恵は気持ち悪がって本気で自分のことを嫌いになってしまうであろう。
しかし、恵は清麿の思いとは裏腹に「わ…私は嫌だなんて思わなかったよ。」と言う。
「むしろ嬉しかったかな…。」と言った後で恵の顔が朱に染まった。もしも清麿に抱き締められたら、と考えていたが、それと同じような状態になっていた。胸がドキドキしている。
清麿も恵も、お互いを想う気持ちが溢れ出して止まらない。たとえ駄目でもいい。溢れる想いを恵に伝えたい。告白するなら今しかないと思い、清麿は意を決して口を開いた。
「俺…恵さんのことが好きです!!」
「えっ?」
突然の告白に恵は驚く。
「友達としてじゃなくて、女性として好きなんだ。あ…愛してるんだ!!」
今の自分はきっと顔が真っ赤であろう。そう考えると 清麿は情けない気持ちになる。しかし、想いを伝えることができたという達成感で胸がいっぱいであった。

恵は嬉しさのあまり、頭の中が真っ白になってしまった。恋心を抱いていた相手が自分のことを好きでいてくれた。人として、最高の幸せだと思った。
「わ…私も清麿くんのことが…好きです。」
恵も自分の気持ちを伝える。
「初めて会ったときからずっと好きだったの。」
恵の瞳からは嬉しさのあまり、涙がこぼれた。そんな恵を清麿はそっと抱き締める。
「恵さん…。」
恵は清麿に抱き締められ、幸せに浸っていた。
「私…仕事とかで忙しくてなかなか会えないかもしれないけど、それでも好きでいてくれる?」
「当たり前さ!!恵さんがアイドルでも何でも俺の気持ちはかわらないよ。」
「嬉しい…。私たち、今日から恋人同士って言っていいんだよね?」と恵は尋ねた。
清麿は「もちろん。」と答える。
ふと、二人の目が合った。少しの間見つめ合ったのち、恵はそっと瞳を閉じた。
清麿はそれに応え、恵に口づけた。恵の唇はとても柔らかい。この幸せを永遠に味わっていたいと思う。
しばらくしてから二人は唇を離したが、その直後に恵が「もう一回…お願い」と恥ずかしそうに言った。清麿は再び恵に口づける。そうやって二人が幸せに浸っていたその時、「ただいま(なのだ)ー!!」とガッシュとティオの声がした。

その声に驚いた二人はぱっと唇を離した。そして、顔を見合わせて笑い合った。何だかとてもくすぐったい気持ちだ。
清麿の部屋にやって来たガッシュとティオは、モチノキ町を探検したことを楽しそうに話す。
二人の甘い時間を邪魔されてしまったことは残念だが、二人を引き合わせてくれたのはガッシュとティオであることを思うと彼らには感謝しなくてはいけないな、と清麿も恵も考える。
それに、二人の時間はこれからいくらでも作れる。魔物の戦いもこれから熾烈を極めるだろう。さらに、恵はアイドルだから忙しいし、外で会うときはちょっと大変かもしれない。
しかし、会える時の喜びを考えればそんな事は苦にもならないと思う。
とりあえず、ガッシュとティオも一緒に、またどこかへ遊びに行こうかなどと、清麿は思った。これから恵と楽しい思い出を作っていくのだと考えると、清麿の胸ははいっぱいになった。


〜続く?〜

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