名無しさん@ピンキー @146


あれは夢だったのか…?
そう思うしかなかった。

遊園地に行った帰り、別れ際にガッシュとティオの目を盗んで恵がしてきたキス。
一瞬だけ触れた柔らかい感触とぬくもり。あれは確かに幻でもなんでもなかった。
付き合っているわけでもなく、好きだといわれた事もない。
ましてや恵が自分を好きになることなんて考えられない。
(…芸能人って、キスが挨拶代わりなのか…?)
あまりにも唐突な事にとんちんかんなことを考えてしまうほど清麿は混乱していた。
そんな時だった。恵が訪ねてきたのは。


「ごめんね?ついさっき別れたばかりなのに」
「あ…いや…別にいいけど…」
さっきまで数時間前のキスのことばかり考えてばかりいたためか意識してしまい
清麿は恵の顔を見ることができずにそっけない返事を返した。
ガッシュは下でティオと遊ばせている。ふたりきりの部屋の中に微妙な空気が流れた。
長い沈黙のあと、、緊張した面持ちで先に口を開いたのは恵だった。
「さっきは驚かせてごめんね」
「え?」
「…キス…」
「ああ…あれ…うん…まあ…」
なんと言えばいいかわからず、清麿は思わず口ごもった。
「…嫌われちゃったかな…?」
「……え?」
予想もつかなかった言葉に呆気にとられた顔をする清麿から目を逸らすようにして
恵が言葉を続ける。
「さっき…いきなりキスしちゃったから……嫌だった…?」
「嫌いになんかならない!!!」
清麿が反射的に叫ぶ。それは心の底から本能的に出た言葉だった。
「好きな人にキスされて嫌いになんか…ならない」
ふたりの顔が真っ赤になる。
清麿はとっさに言ってしまった自分でも気づかなかった思いに驚き、
恵は面と向かって好きだと言われた事に、驚いた。

「嬉しい…」
恵がぽつりと呟く。咄嗟に顔を見ると真っ赤になりながら目には涙をためて笑っていた。
その笑顔に胸が疼く。
「あのね…初めて、コンサートで逢った時から…好きだったの…。
伝えたかったけどなんて言っていいかわからなくて…それで…あのね…」
「うん…もう、わかった…」
はにかむような表情を浮かべて、清麿は恵の頬に手を添える。
「…好きだ…」
それ以上の言葉は要らなかった。


恵の目が静かに閉じ、清麿の顔が近づいていく。
ぎこちない緩いくちづけが、次第に熱を帯びて絡むようなキスになる。
それはまるでふたりの仲を象徴するかのように徐々に濃厚なものに変わっていった。
初めて芽生えた愛おしさを持て余すように、清麿はただひたすら恵を求め続けた。

月明かりが祝福するかのようにふたりを照らしている。
寄り添う影は長い間ひとつになったままだった―――


(終)

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