はぐはぐ ◆skqA.qn5Hw @432


いつもと変わらぬ日常がゆるやかに過ぎていく。
そんなあたりまえの出来事が、ココには何よりも倖せに思えていた。
―――闇が彼女の心を塗り替えてしまった、そのときまでは。


それは前触れもなく唐突にやってきた。
「ボンジュール、ココ」
「――――――――――!!!」
自分以外誰もいるはずのない部屋には誰かが扉を開けた気配さえない。
咄嗟に後ろを振り返ると、そこには見たこともない不思議な姿をした男がいた。
「…あなた……誰?」
「私の名はゾフィス。君のパートナーになる者」
「……パートナー?」
口の端を歪めて挨拶をするゾフィスを見るや、ココの胸が恐ろしい勢いで早鐘を打った。
じっとりと汗をかいた掌が、直感で危険を感じた彼女の心を如実に表している。
「全てのモノをその掌中で操りたいとは思わないかい?」
ゾフィスの口から出てきた言葉はあまりにも予想外だった。
呆気に取られたココが思わず問いかける。
「なんの…ことなの?」
「簡単なことさ。私と君で世界を支配しようと言っているのだよ」

貧しくとも日々を充実させながら懸命に生きようとしているココには
その言葉は絵空事のようにあまりにも現実からかけ離れて聞こえる。
それにも関わらずゾフィスの眼は誇大妄想を語っているようにはとても見えなかった。


「…断るわ。帰って…出ていって」
―――相手にしてはいけない…無視すれば諦めるわ。
子供じみた考えでココがゾフィスから目を逸らす。
しかし、ゾフィスの口から出た言葉がココの心をざわつかせた。
「貧しいだけで馬鹿にしたやつらを傅かせる事もできるのだよ?」
―――何故そんなことまで知っているの???
その言葉はカッとなったココが思わず反応してしまうのには充分だった。
「貧しくても辛くても後ろを向いて生きていくのはごめんだわ。
頑張っていればいつかは光を浴びれるって、信じてるもの!!!」
「…キレイゴトだね」
微かに嫌悪に歪んだような表情を見せ、吐き捨てるような溜息をつくと
ゾフィスの手が怪しい光を帯び始める。
「大人しく従えばいいものを…しかたない。少しいじらせてもらうよ」
そう告げるとつつ…っと滑るようにゾフィスがココに向かって歩を進めた。
思わず後ずさりするも壁に背中がぶつかる―――逃げ道はなかった。

逃げなくちゃ、と頭のどこかで警鐘が鳴り響いていた。
なのにまるでゾフィスの視線に射竦められたかのようにそれ以上足が動かなかった。
にたり…とおぞましい笑みを浮かべたゾフィスがココの頭に手をかざす。
瞬間、頭の中をなにかが通り抜けていくような
――脳の断面をゆっくりとなぞる様な――おぞましい感覚がココを襲った。
「い…嫌ぁぁっ!!!…うぁああああ……」
頭が壊れそう、とはこういった状態を指すのであろうか。
ぬめぬめとした何かが脳内を這いずり回る感覚。吐き気さえ催してしまいそうな
その感覚に立っていることすらもできず崩れ落ちてしまう。
たった数秒程度のことだったが、ココにはまるで永遠のように長く感じられた。


「もうそろそろ…すぐに効いてくるはずだよ」
「……?」
額に脂汗を浮かべ朦朧としたココにゾフィスが思わせぶりな言葉を吐く。
「君には私のパートナーになってもらわねばならないからね。
故に、ただ洗脳を施しただけの人形では困るのだよ…
自らの意思で動いてもらわねば…ね」

くつくつと嫌な笑みを浮かべて語るゾフィスの言葉の意味がココにはわからない。

「…ぁ…あ?」
ココが自身の異変に気づいたのはその直後のことだった。
じっとりと股間が湿って、疼きはじめる。
躰の奥深くで何かが蠢いている感覚がココを襲う。
「あ…ぁあ…ぁああああ…嫌ぁ!何?何なの???」
「おや?もしかして初めてなのかい?快楽を得るのは……それは愉快だ」
「ぁ…あなた…何を…したの……んぅ…っ!」
身を捩じらせながらはじめて知る甘い疼きを堪えようとするも、
快楽に免疫のないココには耐えられず、思わず喉を鳴らしてしまう。

「君が心から私に協力したくなるように少し快楽を植え付けただけだよ…」
ゾフィスが聞かれてもいないのにべらべらと言葉を続ける。
「随分と自制心が強そうだったからさ。欲望に忠実になって貰おうと思ってね」
「あぁ…ん…ぁ……ぁん…!いゃ…ぁは…ぁ」
しかし、ココの耳にはゾフィスの言葉は届かなかった。
ゾフィスが目配せするだけで躰中を何かに舐めまわされているような感覚に囚われる。
それは先ほど施されたおぞましい術とは程遠く、
頭のてっぺんからつま先まで全てが蕩けてしまいそうな悦びさえ感じさせた。


「さぁ、そろそろ邪魔な服を脱ごうか…ココ」
喘ぎながら躰を抱きしめてうずくまってしまったココに、
ゾフィスが追い討ちをかけるように抑揚のない声で告げる。
彼の声が耳からではなく脳の中に直接響いたような気がした瞬間
ココの手が勝手に動きカーディガンを脱ぎ始めた。
意思とはうらはらに、ココの手は今まさにゾフィスに裸体を晒そうとしていた。
「…な…なんで…体が勝手に…」
「抵抗されては面倒だからね。意のままに動くようにしたのだよ…体だけ、ね」

快楽に体を蝕まれながら、震える手がゆるゆると動き服を脱いでいくと
しゅるしゅると衣擦れの音だけが静寂を打ち消すように部屋を満たす。
ショーツだけを残して全ての服を脱ぎ終わると
ココの染みひとつないすべらかな肌が露わになった。
「ほう…これは素晴らしい」
ゾフィスがすぅっと指で肌をなぞる。その感触は絹のようになめらかで
労働で鍛えられた体には無駄な贅肉は欠片もない。
他人に全裸を晒すことの恥ずかしさにココの顔が真っ赤に染まる。
「イヤぁ…助けて…シェリー…」
ぽろぽろと涙を流しながら、来る筈もない唯一無二の親友の名を呼んで助けを乞う。
その言葉を聞いたゾフィスが冷たい声で言い放った。
「助けを呼びたければどうぞ。この状況を見られても構わない、というのならね」
シェリ−が来る訳がない。かといってこんな姿で村の人間に助けを求めた日には
何を言われるかわかったものではなかった。
どうにもならない状態にココの心は追いつめられていった。


「さて、せっかくだし少しは愉しませてもらおうか」
ゾフィスの長く尖った爪がココの胸の頂をそっとなぞる。
「はぁ…んっ!!!」
「おや、もうそんなに感じているのかい。乳首がこんなに勃っているよ」
形のよい胸を手で押し包み、揉みしだくとココの躰がぴくりと跳ねる。
片方の乳房を揉みながら、もう片方の胸の乳首を指で軽く弾くと
ココが悲鳴にも似た喘ぎ声を上げた。

「ゃあ…もう…やめて…」
今やココの躰の全てがゾフィスの愛撫を欲しがっていた。
それでもココは心の片隅で抵抗を続ける。
全てを委ねてしまえば自分が自分ではなくなってしまいそうな、
予感にも似た不安がココを踏みとどまらせていた。
「そういうわけにはいかないよ…ホラ、もうこんなに欲しがっている」
そう言うとゾフィスはココのショーツに指をかけ、ココの股間から剥ぎ取った。
ぐっしょりと濡れて既に下着としての機能を果たしていないそれをココの目の前に突きつける。
「こんなに濡らしてしまって…快楽をもっと得たいのだろう?」
―――欲しくはないわ、と言いたかった。
なのに、ココの口からその言葉が出ることはなかった。
ゾフィスの"言霊"ともいえる術中にココは既に嵌められていたのかもしれない。
それとも、快楽に身を委ねる悦びを"知りたい"と思ってしまったのか――――
自身の欲望を見せ付けられたそのとき、ココの心の中で最後の枷がゆるやかに外れた。


「…欲しい…わ…。もっと…気持ちよくなれるの…?」
その言葉は、ココがゾフィスの手に堕ちたということを知らしめるのには充分だった。
「それでいいのだよココ…さぁ、ご褒美をあげよう」
そう言うと、ゾフィスの指がココの茂みへと伸びていった。
奥の突起を指で軽く擦っただけでくちゅり、と音を立てるほど蜜があふれ出る。
「あぁあ…!ぁはあ…ん!!!」
ぬるぬると蜜壷からあふれ出る液を指に絡めながら突起を擦り続けると、
ココの腰が愛撫を求めるかのように動き始める。脳裏には既に快楽を求めることしかなかった。
乳首を擦りながら突起をくりくりと弄ぶとピンと足が伸びてココの躰が強ばる。
執拗に責められつづけた花芯が少しづつ膨らみを帯びていき、
指でリズミカルに弄ばれるうちにクリトリスに熱が集まりはじめた。
くちゃくちゃといやらしい音がするたびに、興奮が高められて身悶えしてしまう。
「あぁ…イヤ……何か…変なのぉ…っっ…あぁ!あああぁあ!!!ダメ…だめぇえええええ!!!」
びくびくと激しく痙攣すると、ココはそのままぐったりと倒れこんでしまった。

「達したようだね…さて、仕上げといこうか」
ゾフィスはいきり立った自身をココの秘部にあてがうと蜜を掬いとるように擦りつけた。
ぬちゅぬちゅと淫靡な調べが徐々に興奮を高めていく。
「あふぅ…んっ」
軽く意識を飛ばしていたココが甘い声を漏らし始めた頃合いを見て
とろとろになった蜜壷にゾフィスの陰茎がずぶずぶと埋まっていった。
「痛っ…あぁあ!あはぁっ…んぅっ!あっ…ああっ!!!」
先ほどの"精神操作"のためか痛みすらも快感に変えてしまったココは
ゾフィスの激しい動きを抗いもせず受け入れる。

胸の突起をちろちろと舌で愛撫するとココの躰がピクリと跳ね、
ゾフィスのモノが肉壁の少し盛り上がったところを刺激すると喘ぎ声がよりいっそう激しくなった。
「あはぁっ!ふあっ!んっ…ぁああ!!!あっ…あっ…はぁあああん!!!」
「いいですよ…もっと鳴くがいい……気持ちいいんだろう?」
「んんんっ!あっ…あはぁああ!!!いや!イヤぁ!!!いいの!気持ちいいのぉぉっ!!!!」
ココのクリトリスを指で責めながらぐちゅぐちゅとあそこをかき回すと激しく体が痙攣し出した。
ゾフィスのモノが膨張してココの中を埋め尽くす。
「―――ぁあああぁあ!!!いく…いっちゃうぅぅぅぅうう!!!!!!」
それはココが自らの意思を手放した瞬間だった。
「……くぅっ!」
びくびくと蜜壷が締まり、ココが達した事を確認するとゾフィスも膣内へと己が精を解き放った。

繋がったまま、ゾフィスが気を失ったココに耳打ちする。
「すべてを憎め…そしてすべてを欲しがるがいい!君にはその力があるのだからね…」
ゾフィスが自身を引き抜いたそのとき、朱に染まった欲望の塊がココの蜜壷からとろりと零れ落ちた。




「フフ…綺麗ね…もっと燃えればいいのに…ね、ゾフィス」
「ああ、そうだね…ココ」
目醒めたときには優しかったココはどこにもいなかった。
そこにいるのは、復讐と破壊に心を奪われた少女。
その眼に映るのは澄み切った空を赤く塗り替えてしまう、心の闇。

「…みんな、無くなってしまえばいいんだわ…」

初めて知る黒い感情はどれほど甘美なものだったろうか。
晴れわたった空を自らの欲望で染めかえてしまうかのように
いつまでも赤い炎が揺らめき続けた―――――――――



END

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