名無しさん@ピンキー @452


ガッシュ・ベルは、目の前を疾走する少女に何とか追いつこうとした。
ゴールまでもう距離がない。全力疾走もそろそろ限界だ。
だがしかし、今日はいつもより距離を詰めている…。
持てる力を振り絞って足を振り上げ、体を前に進める。その踏ん張りが功を奏したか、
目の前から少女…ティオが消えた。が、ティオとて並ばれた程度で敗北を認めるようなタマではない。
両者一歩も譲らぬ並走の果て、二人は並んでゴールの松の木にたどり着いた。
二人はそのまま野っ原に転がると、噴出す汗を拭うのも忘れてぜえぜえと息を整える。
いつもここに来る時は、高嶺宅を出たところから競争になる。
それはやがて相手に、そして自分の限界に挑む闘いとなり、
この森でゴールを迎える頃には消耗しきってしまうのだった。
…まあ、すぐに回復するんだけどね。
ガッシュはまだ荒い息をしたまま転がっている。ティオは身を起こして大きく息をついた。
木々の間を抜けてくる風が、汗ばんだ体に心地よい。
見上げた空は抜けるような青空だったが、深まりつつある秋の日差しがそれ程でもないのはありがたかった。
ティオはちらりとガッシュを見た。荒い息遣いは収まりつつあったが
身を起こさず大の字になったまま、ガッシュは空を見つめていた。
風が通り抜けていき、さわさわという葉擦れの音だけが響いていく。
ティオは声をかけるべきかどうか迷ったが、結局そのまま目を逸らした。
決まってこういうよく晴れた日に…別に声をかけても気づかないほどとか、
そういうわけではないのだが…ガッシュはぼうっと空を見ていることがあった。
この間公園で遊んでいると言われて行ってみた時も、
ガッシュは何をするでもなく砂場で空を見上げていた。
一度だけ、理由を聞いてみたことがある。
するとガッシュは少し躊躇って、コルルが消えたときもこんな空だったのだ、と言った。
彼はそれ以上言わなかったし、ティオもそれ以上聞かなかった。


コルル。
魔本によって生み出された凶悪な人格によって望まぬ戦いを強いられ、
涙の願いをガッシュに託して魔界へと還っていった少女…やさしい王様を目指すガッシュのルーツ。
彼女が消えていった風景がガッシュの心に刻まれていたとしても不思議はないのかもしれない。
しかし。
いつからか…恐らくは、ガッシュと共に戦うことを決めた時から…
ずっと頭にひっかかっていることがあった。
自分は恵に、そしてガッシュと清麿に救われるまで、誰も信じることができなかった。
身の回りの全てが敵で、仲の良かった友達さえもが自分を殺そうとするこの戦いを呪い、
戦えないままに傷つき、自分を上回る力に何度も敗れ、傷だらけになって逃げ続けた。
その経験があるからこそ、そんな奈落の底から自分を救ってくれたあのやさしさを
皆に分け隔てなく与え、自分がしたような辛い思いを誰にもさせないために、
ティオはやさしい王様を目指している。だから、戦いにおいてもやさしさを捨てる事はない。
ガッシュもそれと同じ考えを持っている…そう思っていたのだが、
果たしてガッシュの身にも、自分と同じような事が起きていたのだろうか。
耳にしたことはない。
しかし、ガッシュの信条が疑うべくもないというのも事実だった。
仮にあらゆる手段を以って敵を打ち倒し、血で血を洗って王になったとしても、
誰もガッシュを責めることなど出来はしまい。それがこの戦いに選ばれた者本来の姿であるからだ。
それはガッシュもわかっているはずだった…が、
ガッシュは決してやさしさを捨て去ろうとはしないのだった。
自分のような経験を持たないにもかかわらず、それは何故なのか。
自分を救い出し、マルスを倒した時、ガッシュは言った。
コルルがやさしい王様を望んだ。だから戦っている、もうこんなバカな戦いはやらせたくない、と。
もしかすると、“だから戦っている”は言葉どおりの意味なのではないだろうか。
全てはコルルの願いを叶えるため。
確かによくよく考えてみれば、ガッシュの信条はみなコルルが受け、
傷つけられたものに起因しているではないか。
もしそうだとすれば、ガッシュはなぜそれを望むのだろう…?

ティオはそこで思考を打ち切り、かぶりを振った。
まただ。また、わかるわけのないことを考えている。
こうして考えるのは初めてではなかった。だがその度に行き着くのは、いつも推測に推測を重ねた末の妄想である。
このまま考えていっても、同じくそうなってしまうに違いない。
それも当然の話だった。自分の知っているガッシュの心の内などたかが知れている。
ガッシュの内面にかかわるこの疑問に自分一人で答えを出すことなど、土台無理な話なのだ。
…じゃあ、聞いてみる?そこで寝てるガッシュに?
ティオはわずかに口を開いて、そのままため息をついた。
“どうしてガッシュは、コルルの願いを叶えたいの?”
ほんの一言。なのに何故だろうか、ガッシュにこれを聞くのはひどく怖かった。
本当に、どうしてかしら…。
ティオは再びため息をついた。なぜ気になるのか、なぜ聞くのが怖いのか、わからないことばかりだ。
そもそも気になるはずはないのに、とティオは思った。
やさしい王様になること、あるいはそんな志を持つ者が戦いに勝ち残る事が
望みであるティオにとっては、ガッシュがやさしい王様を目指す理由が何であっても…
仮に、本当にコルルのためであったとしても…一向に構わないはずなのだ。
それは頭ではわかっている。なのに一度気になりだすと、もう気になって仕方がない。
おまけに、それがしょっちゅうときている…。
ティオは空を見上げたままのガッシュを見やった。大きな目に映る雲さえ見えそうな気がする。
やさしい王様。コルルの願い。ティオの願い。
…ガッシュにとって、コルルとは一体なんなのだろう。
何故なのかはわからない。だが、結局気になっているのはそういうこと。
“だから私は戦ってるのだ!”
頭の中でガッシュの言葉が蘇って、ティオは胸中の疑問が大きくなるのを感じた。
またしても思考が渦を巻き、頭を支配しようとする。
そしてまた“たられば”を積み上げ始めたそれにだんだん苛立ってきて、
ティオはがしがしと頭をかいた。ああもう、いつまでこんなこと考えてるの!
聞くのが怖いのは変わらなかった。が、これ以上押さえ込むことも出来そうにない。
ガッシュはそこにいる。聞かないから、いつまでも気にしてなくちゃいけないんじゃない。
…そうでしょ、何が怖いってのよ!

「…さて!」
ティオが意を決すると同時に、ガッシュ・ベルは立ち上がって伸びをした。
ローブについた草と土を払い、それからもう一度伸びをする。そして特訓を始めようと、
ガッシュは座ったままのティオに声をかけるべく顔を向けた…と同時に、
ティオはうつむいたままガッシュのローブを掴んだ。
「ウヌ?」
「…ちょっと聞いていい?」
「ヌ?どうしたのだ?」
ガッシュは再び腰を下ろすと、正座になってティオに向き合った。
ティオはそれを待ってから、自分も正座になった。が、視線は落としたままだ。
いざとなって、ひどく怖くなってきているのはわかっていた。
あれほど鮮明だった“聞きたいこと”はぼやけにぼやけ、どう問いかければいいのか見当もつかない。
ティオは自分の情けなさにがっかりした。それでも、何とか聞かなくては…遠回しでも構うまい。
ティオはそう決めると、ようやく顔を上げてガッシュを見つめ返した。
「…ガッシュ、ウマゴンのこと好き?」
「ウヌ、もちろんだ。大好きだぞ」
「キャンチョメのことは?」
「同じなのだ。大好きな友達だ」
「…私のことは?」
「…大好きだぞ?ウヌゥ、どうしたというのだ?」
ティオは僅かに視線を落とした。それから少しだけ…ほんの少しだけ、声を落として問いかける。
「じゃあ…コルルのことは?」
ガッシュは困ったように眉をひそめた。
「ウヌゥ、ティオ…当たり前であろう」
「…大好きな友達?」
「ウヌ。その通りなのだ」
ティオはうつむき、少し口ごもった。
「……他の友達と一緒?何も違わない?」
ティオがそう言うと、ガッシュは腕を組んで考え込んだ。
「それは……そうとも言えぬかも知れぬ」
一瞬、ティオは背筋がぞくりとした。疑問に答えが欲しいという気持ちが薄れ、
その先を聞きたくないという恐怖心が大きくなる。額に汗が浮かぶのを感じた。

「ウヌゥ…こんな人のことを何と言うのだったかのう、思い出せぬのだ。だがとにかく、コルルは…」
続く言葉が怖くて、知らないうちに鼓動が早くなっていく。体が震えそうになる。
言わないで。もういいの、もういいから!
声なき願いに気づかないまま、ガッシュはしばらく考え、いつもの笑顔で言った。
「他の誰とも違う、特別な人なのだ」
一瞬の間。
心が締め付けられるような気分になって、ティオは思わず胸に手を触れた。
他の誰とも違う“特別”。つまり、コルルはガッシュにとって…。
疑問に合点がいくと同時に、どうしてそれが気になっていたのか…
その理由をはっきりと認識せざるを得ない悲しみが押し寄せる。
ガッシュのことが好きだった。それもどうやら、自分で思っていたよりもずっと。
だけど、ガッシュには自分以外の好きな人がいる…聞くのが怖かった理由は、この答えそのものだった。
真正面から突きつけられたその事実に、ティオはひどく打ちのめされた。
油断すればわんわんと泣き叫んでしまいそうで、歯を食いしばって嗚咽に耐える。
が、視界が歪むのは止められない。ティオは力なくうなだれ、ガッシュに顔を見られないようにした。
「…ウヌ?ティオ?」
怪訝そうに問いかける。返事はない。
ガッシュはティオの肩に触れてみた。静かな震えが伝わってくる。
顔を覗き込もうとすると、ティオはさっと顔を背けた。
頬を伝った雫がガッシュの腕に散る。思わず肩から手を離し、ガッシュは目を丸くして言った。
「お主、泣いておるのか?」
やはりティオは答えない。が、代わりに震えが大きくなった。
「ど、どうしたのだ?どこか痛いのか?バンドエイドならあるのだ」
ガッシュは慌ててポケットを弄り、バルカンを取り出して…違うと言って投げ捨てた。
「ウヌゥ、あったはずなのだ!」
ティオは涙で歪む視界の中で、わけもわからず大慌てになったガッシュを見つめた。
コルルのことが好きなのであろうガッシュ。コルル自身はどうなのだろう。
相思相愛であるのか、それとも片思いなのか。いずれにしても今、ここにコルルはいない…。

ティオはガッシュのローブを掴むと、もう片方の手で涙を拭いながら顔を上げた。
ガッシュはようやく折れ曲がったバンドエイドを発見したところだった。
「だ、大丈夫か?どこが痛いのだ…?」
ガッシュが心配そうに言う。ティオは答えず、そっとガッシュの頬に触れた。
誰にも渡したくない。私をあの奈落の底から救ってくれた、大好きなガッシュを。
例えそれがガッシュ自身の意思であったとしても。
ティオはガッシュの首に両腕を巻きつけると、その唇にキスをした。
「ムヌ!?」
そのままガッシュを押し倒し、上に覆いかぶさる。頬に、唇に、首筋に、何度もキスを繰り返す。
ガッシュはどうしていいかわからずに、ただされるがままにキスを受け続ける。
やがてキスの嵐を止めると、ティオはガッシュの胸に顔を埋めた。
ティオはそこでもまだ泣き続けていたようなので、ガッシュはしばらくそのままでいたが、
それが収まるとそっとティオに触れ、顔を上げるように促した。
ティオはゆっくりと顔を上げた。その顔は首まで真っ赤になっている。
ガッシュは自分もきっとそうだろうと思った。ひどく顔が熱い。耳が燃えそうだ。
「…い、一体…どうしたのだ?」
ティオはガッシュの首を開放すると、そのままガッシュの上に座り込んだ。そして、自分の服に手をかける。
コルルの意思に介入する暇を与えない、自分は卑怯なヤツなのかもしれない。
それでも、ティオはガッシュを自分のものにしたかった。自分をガッシュのものにして欲しかった。
もっと、ガッシュを近くに感じたい。
ティオが上着を脱ぎ捨てて下着だけになると、ガッシュは一瞬見とれて、それから慌てて両目を塞いだ。
「ティオ、何を!」
「…私も…」
「ヌ!?」
「私も、ガッシュの特別な人になりたい。ただの友達じゃイヤ」
ティオはもう一度ガッシュにキスをした。今度は一度だけ、ただしゆっくりと時間をかけて。
やさしく絡めた舌を離すと、ティオはもう一度ガッシュに覆いかぶさり、愛しげにその腕を撫でた。
「好きよ」
今までよりも鮮明に体温が伝わってきて、ガッシュは自分の中に
今まで感じたことのない異質な欲求が湧き上がるのを感じた。
「ガッシュも、好きになって」

目の前の状況とその欲望を自覚すると同時に、頭が割れるような興奮がガッシュを襲った。
自分が何をしたいのかもよくわからず、疼く体に従うままに、ガッシュはティオを抱きしめた。
力いっぱい締めつけられて、ティオが思わず呻く。荒い吐息が首筋にかかる。
二人はそのまま転がって、今度はガッシュが上になった。
形勢は逆転したものの、ガッシュはティオから離れようとはしなかった。
頭を支配しているある種の欲望…ガッシュの知っているもので例えるなら、食欲が一番近い…に任せて、
ガッシュはティオの首筋にむしゃぶりついた。匂いをかぎ、舐め、甘噛みする。
興奮を収められないままティオの両肩を掴み、今度はガッシュから唇にキスをした。
ティオは噛み付かれたようなその痛みに顔をしかめたが、それを口に出そうとはしなかった。
代わりに片方の下着の肩紐をずらすと、ガッシュはそれを見て反対側の肩紐を引き摺り下ろす。
自分のそれとまるで変わらない胸が露になると、ガッシュは噛み付くターゲットを変えた。
「んっ…!」
ティオは身を捩じらせ、ガッシュの背に片腕をまわした。舐められ、吸われる度に電気が背筋を走る。
ガッシュは舌先で何度も先端を刺激しながら、反対側の胸に触れ、掴み、撫でた。
伝わる鼓動はまるで早鐘のようだ。埋めていた胸から顔を上げ、ティオの顔に目を向ける。
紅潮しきった頬からは蒸気が立ち上り、どこか虚ろな目は行為の再開を求めてガッシュを見つめていた。
自分を受け入れきったその姿にガッシュはたまらなくなって、再びキスをしようと顔を近づける…
そのために足の間に入った膝が秘部にぶつかると、ティオは小さな悲鳴を上げて仰け反った。
一瞬の間があって、ガッシュの視線がそこに移る。
ティオは少しだけ躊躇した。が、ガッシュが膝を上げると、心を決めてスカートを引き上げる。
秘部を覆う下着は、汗と何かでひどく濡れていた。ガッシュがそれに触れると、ティオは小さく呻いた。
「や…あぁ…」
僅かなふくらみを押し、撫で、なぞる事で、更に下着は濡れていく。
その事自体に興奮して、ガッシュはそれが何かわからないままに愛撫を続けた。
さっきまでよりも遥かに、ティオの息が荒くなっているのはわかっていた。

爆発せんばかりに膨れ上がった欲望に従って、ガッシュはほとんど何も考えずに秘部を下着ごと舐め上げる。
ティオは目を硬く閉じて刺激に耐えようとした。が、下着がずり下ろされるのを感じた直後、
一度目とは比べ物にならない刺激が襲って、ティオは思わず体を跳ね上げた。
ガッシュは露になった秘部を舐め、目に付いた小さな突起を甘噛みした。
「っあ…んっ!やんっ!」
暴れるように反応するティオの体を押さえながら、何度も舐め上げ、吸い付き、弄り続ける。
まともに反応も出来なくなったティオが涙目でガッシュを見つめる頃には、
ガッシュの口のまわりは下着を濡らしていた愛液でびしょ濡れになっていた。
ティオは肩で息をしながら、懇願するようにガッシュを見つめている。
ガッシュもそれには気づいていたが、何を求められているのかはわからなかった。
どうしていいのかわからないまま、再び顔を胸に近づけた。硬くなった乳首を舐め、
吸い付きながら愛液にまみれた秘部に触れ、強く押してみる…
すると指が二つの膨らみの間に滑り込み、驚くほど奥に入り込んだ。
「ぁあぅっ!!」
ティオは悲鳴を上げた。奥に入った指を動かすと、ティオは再び跳ねるように身を捩じらせる。
これが求められていたのかどうかはわからなかったが、指の動き…根元まで押し込んでみたり、
引き出してみたりもした…を激しくすればするほど、ティオは呻き、激しく身を捩じらせて喘いだ。
「っ、あ、あ、ぁ、ぁ、あ、が…ガッシュ、ガ…ッシュ…ぅうぅ!」
ティオは必死で身を起こすと、ガッシュの頭を抱きしめた。
必死に唇を噛み、どんどん激しくなっていく刺激に耐える。
どれくらいその行為に没頭していたのか…
出し抜けに指の締め付けが強くなって、ガッシュは思わず指を引き抜いた。
同時に曲げられた指が陰核を弾くように掠めて、ティオはひっと短い悲鳴を上げる。
刹那、今までよりも遥かに激しい刺激がティオの体を突き抜けた。
「…っーーーーっっ!!」
一瞬の間を置き、秘部から多量の愛液が溢れ出る。そのままひとしきり痙攣したかと思うと、
ティオはガッシュに抱きついたまま、がくりとこうべを垂れた。

しばらくの間、ガッシュはティオの胸の中で手にべっとりとついた愛液を見つめていた。
が、やがてティオが動いてないことに気づくと、ガッシュは汚れていない方の手でティオの腕を解いた。
「…ティオ?」
反応はない。顔にかかっている乱れた髪をかき上げてみる。
どうやら気を失っているようだった。
少しずつ興奮が冷めていく。どこかに行っていた血が頭に戻ってくる。
段々と欲望が小さくなっていくのを感じながら、ガッシュは口の周りを拭った。
近くに川があったはずだ。手を洗わないといけない…それに、ティオの服も。
どうしてこういう展開になったのか考えながら、
ガッシュはティオを草むらに寝かせると覚束ない足取りで立ち上がった。
汗をかいたせいだろうか、木々の間を抜けてくる風がやけに冷たい。
コルルは他の誰とも違う、と言うと泣き出したティオ。
ガッシュの特別な人になりたい…そう言ったティオ。
いつも訓練で使っていた河原に着くと、ガッシュはそっと手を水につけた。
指にまとわりついていたものが、さらさらと流れ落ちていく。
ティオは“他の誰とも違う特別な人”が意味するのは好きであるということ、そう考えたらしい。
…あの日以来、ガッシュにとってのコルルは間違いなく他の誰とも違う特別な存在だ。
だがあの空の下にあったのは、恋心とかそういった類のものではなかった。
あったのはただ、もう望まぬ戦いはしたくないという切なる願い。
そして、パートナーと引き裂かれてでも魔界に還らなければ、避けられない戦いが待っている…
それをどうすることも出来なかった悔しさ。
戦いを続けていく中でいつしかそれは、あんな涙はもう流させないという誓いに昇華した。
そしてその誓いは戦いに勝ち残れるとも、王になりたいとも思っていなかった
自分を今の自分に変えるきっかけを与えてくれた。
コルルは自分が本当に守りたいものを守るためにはどうすればよいのか、
それをわからせてくれたのだ…
あの時思い出せなかった言葉が頭に浮かんで、ガッシュはああと呟いた。
そう、コルルはガッシュにとって、大事な"恩人”だったのだ。

ガッシュは流れから手を抜くと、何度か振って水滴を払った。雫が川面に散る。
木々の合間を縫って差す陽光がそれにきらめいて、ガッシュは空を見上げた。
よく晴れた青空。こんな空を見ると、時々コルルのことを思い出す。
そして、決意を新たにするのだ。何が何でもコルルの願いを叶えること…
それが自分の意志を貫き通す事であり、また恩を返すことでもあるはずだと信じて。
ガッシュの脳裏に、泣きながらローブを掴むティオの姿が浮かんだ。
自分の中でコルルとティオを同じ存在にする、それはできない。
だが…。
ガッシュはきれいになった手のひらを見た。触れていた温もり、鼓動を思い出す。
それから踵を返すと、ティオの元へ歩き出した。


(了)

左メニューが表示されていない方はここをクリックしてください